幼老複合施設ってなに?入所のメリットとデメリットを知ろう
高齢者介護施設と聞くと、老人ホームやグループホームのように高齢者だけが集まっている空間をイメージしませんか?しかし、高齢者介護施設にはさまざまな種類があり、同じ敷地内に保育施設を併設する施設も存在します。このように介護と保育が1ヵ所に集約された施設は「幼老複合施設」と呼ばれています。
そこでは、高齢者と子どもという異なる世代が定期、不定期を問わずに交流し、レクリエーションや誕生日会といったイベントを一緒に楽しんでいます。「幼老複合施設」が生まれた背景や同施設の特徴、入所のメリットやデメリットなどを見ていきましょう。
幼老複合施設とは?
「幼老複合施設」とは、高齢者介護施設と保育施設が同じ敷地内もしくは隣接する土地に立地している施設のことを指します。たとえば、同じ敷地に保育園と老人ホームがある、隣接する土地に保育園とグループホームがあるようなケースです。
幼老複合施設が生まれた理由の一つは、土地の有効活用です。土地が狭い都市部では公共施設の合築・併設などが進められ、介護と保育のサービスについても、高齢者介護施設と保育施設を1ヵ所に集約するやり方が適していました。既存の高齢者施設に保育施設を増築し、少しでも保育の受け皿を増やすことで、待機児童問題解消にも役立ってきたといえるでしょう。
地域共生社会の考えに沿った施設
幼老複合施設は、政府が後押しする「地域共生社会」の考えにも沿っています。地域共生社会とは、子どもや高齢者・障がいを持った人を含めたあらゆる人が支え合い、ともに生きる社会を指した言葉です。核家族化が進み、地域との繋がりが希薄な現代社会においては、幼児と高齢者が繋がりを持ち、支え合える環境は、異世代が交流して互いを思いやる貴重な場所となります。
幼老複合施設へ入所するメリット
高齢者が幼老複合施設へ入所するメリットの一つは、子どもたちと交流できることです。周りが高齢者だけの環境と比べると、世代が全く違う子どもと触れ合うことで、入所者は新鮮な体験を得られます。単に子どもが無邪気に遊ぶ姿を見るだけでなく、直接関わり合うことで得られる刺激と癒しは計り知れません。
子どもが来る日には、デイサービスの利用者が増えたケースも
実際に、このようなエピソードが報告されています。
- 寝たきりの人がベッドから自然に起き上がれるようになった
- 他人と関わろうとしなかった人が、子どもたちといっしょに食事をするようになった
- 昔を思い出し、子どもたちに遊びを教えた
- 子供が来る予定の日には、デイサービスの利用者が増えた
元気に遊ぶ子どもと接すると、高齢者は心が穏やかになったり、小さい子どもを可愛がりたくなる気持ちが湧いてくるのでしょう。また、自分の幼少期や子育てを思い出し、豊かな気持ちを抱けるのかもしれません。近くに小さい子どもがいることで、おじいちゃん、おばあちゃんとしての役割が生まれ、生きがいを感じるようになるのもメリットです。
幼老複合施設へ入所するデメリット
一方で、入所することのデメリットもあります。
感染症にかかるおそれがある
その一つが、感染症リスクです。保育園ではインフルエンザやノロウイルスといった感染症がしばしば流行しますが、それらが高齢者にうつってしまうおそれがあります。高齢者は免疫力が低下しているため感染症にかかりやすく、重症化も心配です。高齢者だけの施設より、感染リスクは高いと考えた方が良いでしょう。
また、子どもとの交流によるトラブルも心配です。たとえば、子どもが誤って高齢者の錠剤を飲んでしまう、動き回る子どもと高齢者がぶつかりお互いが転倒するといった事態が起こりえます。「一人で静かに過ごしたい」と落ち着いた環境を望む人は、子どもの声をあまり歓迎しないでしょう。
スタッフの負担が増し、ケアする人が不足する可能性も
スタッフの負担が増すのもデメリットです。スタッフは高齢者と子どもの両方に気を配る必要があり、負担が増えてしまいます。介護業界の人手不足は深刻な中、事故防止や感染症対策に努めなければならない幼老複合施設では、人材の確保や定着が一層難しくなる可能性があります。結果として、入所者へのケアが十分に行き届くかについて家族が不安を感じるかもしれません。
施設によって、異世代交流の内容と頻度はさまざま
高齢者介護施設にはデイサービスやグループホーム・特別養護老人ホーム、子ども向け施設には保育園や幼稚園・小学校などさまざまな種類があるため、幼老の組み合わせにもたくさんの種類が存在します。
たとえば、「保育園とデイサービス」や「保育園とグループホーム」、「小学校とデイサービス」「児童館と特別養護老人ホーム」などその組み合わせは多岐にわたります。複合施設ですから、「保育園、学童保育、デイサービス」のように施設数が3つ以上に及ぶこともあります。
そして、幼老複合施設へ入所後の過ごし方は、施設によって異なります。ここでは、デイサービスを例に挙げて入所後にすることの違いを見てみましょう。
たとえば、「小学校とデイサービス」の組み合わせを持つ施設では、次のようなプログラムが用意されることがあります。
- 小学校の授業の一環として高齢者と児童が交流を持つ
- 休み時間中にお互いにコミュニケーションを取る
- 運動会や卒業式といった学内行事へ高齢者が参加する
いっぽう、「保育園とデイサービス」の組み合わせでは
- 歩行訓練として、高齢者が保育園を散歩をして園児と交流を持つ
- 園児が高齢者がいるフロアを訪れ、一緒に遊ぶ
といったプログラムの例があります。
このように、組み合わせや運営方針により、異世代交流の内容と頻度はさまざまです。中には、交流は特別な行事の際のみで、日常的な交流がない施設もあります。
幼老複合施設であることが入所の決め手となる場合は特に、入所を検討する施設の資料をよく読み、見学時には雰囲気や交流の内容・頻度をチェックするようにしてみましょう。
異世代交流がもたらす良さ
保育園児が近隣の老人ホームを訪問し、一緒の時間を過ごす
幼老複合施設内にとどまらず、高齢者と子どもが地域内でコミュニケーションを取ることがあります。たとえば、保育園児が近隣の老人ホームへ訪問し、一緒におやつを食べたり、誕生日会のようなイベントを開いたりするケースです。
核家族化が進み、子どもと高齢者の交流機会が減っている中、積極的に異世代交流を図る保育園もあります。子どもは高齢者との触れ合いを通じてお年寄りへの接し方や敬うことを学べるからです。高齢者介護施設を訪問するだけでなく、保育園の行事に高齢者を招待することもあります。
埼玉県志木市では、ALSOK介護が運営する保育園の園児代表が近隣の高齢者介護施設へ訪問し、敬老の日のプレゼントを渡しました。出迎えたスタッフや高齢者を前にドキドキしながらも、帰る頃には「また遊びに来るね」と園児たちは楽しそうでした。
異世代交流は、社会の自然な形
本来、社会は子ども、若者、高齢者などさまざまな世代が共生するのがあるべき姿です。未就学児だけ、高齢者だけの環境よりも、異世代がともに過ごす方が自然ではないでしょうか。高齢者介護施設に入って同世代とばかり過ごしていると、高齢者が弱ってしまうリスクがあると言われています。しかし、異世代交流によって刺激を受けると、高齢者が生きる活力や元気を取り戻せるのです。