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認知症マフとは?期待される効果や介護施設での導入事例を紹介

近年、医療や介護の現場で「認知症マフ」というアイテムが注目されています。これは毛糸を編んで作った円筒形の小物で、マフ本体や表面に縫い付けたアクセサリーに触れることで、認知症患者が落ち着きを取り戻し、安心感を得られるといわれています。

日本の認知症患者数は増加を続けており、2025年には高齢者の5人に1人、全国民の約17人に1人が認知症を患うと予測されています。高齢化に伴って患者数は今後も増加が見込まれるため、家族が認知症になり介護を要する状況は決して他人事ではありません。こうした状況では認知症への理解を深め、患者への適切な接し方を知っておくことが重要です。本記事では、認知症マフとは何かや患者に対してどのように使われているかなどについてご紹介します。

認知症マフとは?

そもそも「マフ」(muff)とは、毛糸で筒状に編んだ防寒具のことを指します。中世のイギリスやフランスの貴族が使っていました。彼らは筒の中に両手を入れて暖を取っていたのです。手袋と比べると、筒の中で自由に手を動かせるのが特徴です。「マフ」はその後、認知症患者の不安を和らげる役割を果たすようになりました。

いったいなぜ、マフと認知症が関係しているのでしょうか。認知症になると記憶力や判断力が低下しますが、感情は残ります。もの忘れがひどくなっても、楽しいや悲しいといった気持ちは抱くわけです。かつては当たり前のようにできたことができなくなり自分の変化に不安を感じた認知症患者は、近くにあるものを握ったり触ったりして、不安を和らげようとするのです。このような理由で、イギリスの病院ではマフの外側にアクセサリーを付け、認知症患者が視覚と触覚で楽しめるよう工夫した「twiddlemuff」が使われるようになりました。“twiddle”とは、英語で「ひねる」や「手でいじる」といった意味です。

日本では2018年ごろから「認知症マフ」として普及が進み、認知症患者の不安緩和や介助をスムーズに行うために役立てられています。

認知症患者の思い出に寄り添うマフ作り

認知症マフを作る際に用意するのは、毛糸です。かぎ針や棒針などの道具を使って編んでも良いですし、指でも編めます。一から編まずに、既製の腹巻きやレッグウォーマーといった筒状の小物を使い、アクセサリーを付ける方法もあります。

制作前には、大きさや色、アクセサリーを決めます。アクセサリーを考える際には、本人や家族から聞いたエピソードを参考にすると良いでしょう。たとえば、ずっと釣りが好きだった人であれば魚や船の飾りを付ける、海を連想させる水色の毛糸を使う、野球が好きだった人であればボールやバットの飾りを付けるなどです。本人にゆかりのあるマフに仕上げることで、患者がマフに愛着を持ち、穏やかな気持ちを抱く効果が期待できるでしょう。

認知症マフの作り方についてはワークショップが開催されているほか、インスタグラムやYouTubeでも紹介されています。

安全への配慮も必要

見た目だけでなく、安全にも配慮することが必要です。たとえば、筒が大きすぎると患者が頭から被り顔を覆ってしまうおそれがあります。また、毛糸の誤飲を防ぐために編む際には後始末をしっかりとしましょう。制作前には、使用中に考えられるリスクを想定しておくことが重要です。

認知症マフに期待される効果とは?

認知症マフは、認知症患者の心身の緊張を和らげ、安心感を与えるのに役立つと言われています。また認知症マフが会話のきっかけとなり、スタッフと認知症患者とのコミュニケーションが進むこともあります。

「あまり会話ができない状態だったのに、マフをきっかけに少しだけ会話ができた」といった効果が報告されています。マフ本体や内側、アクセサリーの手触りが良いことから、高齢で視力が低下した患者に対して使えることも特徴です。マフを使うことで、目が見えない不安が和らいだと話す方もいます。

スムーズな介助に役立つ一面もある

そのほかにも、医療や介護の現場では、患者の身体拘束の予防効果への期待が寄せられています。身体拘束とは、治療上の理由から患者の行動を制限することです。生命に関わる場合や一時的であることなどの条件を満たす場合に限ってのみ、衣類や綿入り帯などを用いて患者の身体を拘束できるのです。

認知症患者は、体に繋がれている点滴チューブが気になって手でいじったり、外してしまったりすることがあります。また、自分でオムツを外したり、ベッドの柵を握り続けたりすることもあります。介護の現場では、身体拘束以外のさまざまな方策を探し、試みます。そのうえで、患者の行動が治療や身体に差し障るレベルに達したと判断した場合にのみ、やむを得ず身体拘束が行われることがあります。治療や安全のためとはいえ、家族が手足の自由を奪われる姿を見るのは気持ちが良いものではありません。患者本人も辛いはずです。

認知症マフを使うことで患者はマフに関心を示し、チューブ類が気になりづらくなります。結果として自分で外さなくなっていき、拘束の必要性も下がっていくのです。医療や介護の現場では、「掴んだ物を離さない人の介助がスムーズになった」「自分でおむつを外さなくなり、介助がスムーズになった」といった効果を実感するケースもあります。

ただし、認知症マフの効果には個人差があり、使用すれば絶対に変化がある、身体拘束をせずにすむわけではありません。

施設や自治体での活用事例

認知症マフは、可愛らしい見た目と作りやすさ、そして認知症の人を落ち着かせる効果から、病院や介護施設で導入されることがあります。

病院の年間目標に「認知症マフの導入」を挙げるケースも

インターネットで「認知症マフ ブログ」と検索をすると、医療従事者が体験を綴った病院の公式ブログが見つかります。

このようなブログには、認知症マフの使用経験や患者の反応が書かれていて、ご家族の入院や施設への入所を考えている方にとっては有益な情報源となるでしょう。スタッフ同士が勉強会を開催してマフの作り方を学んだり、病院の年間目標に「認知症マフの導入」を掲げたりするなど、積極的に取り入れている施設があることがわかります。

ボランティアによる認知症マフ作り運動

地域住民の有志がボランティアグループを作り、メンバーが認知症マフを制作して介護施設に届けるという取り組みが、全国で見られます。これは、政府が推進する「地域包括ケア」の考えにも沿っています。地域包括ケアとは、高齢者が要介護状態となっても住み慣れた地域で暮らせるように地域一体で支える支援する体制のことです。マフを作って寄付をした高校生たちが報道されたこともあります。「誰かの役に立ちたい」との優しさの輪が広がり、地域住民と認知症の人々の交流に繋がっています。

自治体サイトで周知する取組も広がる

たとえば、自治体が運営している「オレンジカフェ」では、認知症マフの実物展示や活用方法などの紹介が行われることがあります。オレンジカフェとは、認知症に関する情報提供や相談ができる場のことで、各自治体に点在しています。また、自治体の認知症関連サイトでも認知症マフが紹介されることがあり、認知症イベントでも認知症マフに関する展示が行われています。認知症や認知症マフへ関心がある人は、足を運んでみると良いでしょう。