科学的介護って何?
厚労省が推進する介護DXと介護現場の変化
昨今の高齢者介護の現状について
はじめに「介護保険の制度」について、少し触れたいと思います。
介護保険サービスは非常に複雑であるため、ケアマネジャーといわれる職種の方が介護保険の専門知識をもって、ご利用者様に対して適切なサービスが提供できるよう“橋渡し”をする仕組みになっています。ご利用者様にとって、ケアマネジャーは欠かせない存在であり、「ご利用者様本人の意向」「ご家族様の意向」「身体状況」他、様々な情報を元に、適切なサービス提供となるよう「ケアプラン」を策定し、ケアプランに基づいた介護サービスを提供することが基本の流れとなっています。
ただ介護保険制度が2000年開始から早20数年が経ち、社会情勢の変化により介護を取り巻く状況も大きく変化していきました。
≪増え続ける高齢化率を支える介護保険の懐事情≫
新聞報道等でご承知のとおり、ここ20数年で全国的に高齢化率が上昇し、受け皿となる“介護サービスの供給”に歪みが出ています。特別養護老人ホーム入所の待機者増、在宅介護サービスを中心に事業所は増えているものの、地域格差や担い手である介護職員人材不足により、必要なタイミングでサービス提供が受けづらいなどが挙げられます。
更に深刻なのは国の財政事情です。当初予定していた介護保険事業の想定を遥かに上回る急激な高齢化率により、実質的に他の財源を補填することで、ギリギリ維持している状況です。
また限られた財源を有効に使用するための工夫も求められます。昨今、“介護DX”などの言葉がよく使用されますが、ICT活用や人材定着支援などを地方行政が主体となって、介護事業所を支援し業務効率化と生産性を向上することにより、質の高いサービス提供を維持する取り組みも始まっています。
昨年4月より科学的介護情報システムがスタート!
≪準備段階とスタート時のエピソード≫
ここでは詳細は省略致しますが、前段として段階的に2017年から複数の実証実験が開始されました。介護サービスの“要”である「ケアプラン」をデータ収集し、分析結果を介護現場にフィードバックすることで、属人的な介護サービスから“エビデンスに基づいた介護サービス”を実現する目的として推進されました。数百から数千の介護事業所のご協力により、取組みがすすみ、昨年4月、複数の実証実験を統合し、「科学的介護情報システム(通称:LIFE)」が開始されました。
開始当初は、システム操作に慣れていない介護職員の入力負担などの声が多く、同システムの利用率が中々向上しない時期もありましたが、昨今は各施設で介護記録ソフトの導入がすすみ、データ提出が容易になったことで多くの介護事業所が取り組み結果となりました。
≪科学的介護の仕組みと目的≫
では仕組みについて、わかりやすく解説します。
介護保険制度として、「ケアプラン」「介護記録」の作成は義務化されていますが、必ずしも電子化されていない現状でした。紙の帳票管理では、職員の転記作業や過去記録を探す際の非効率さなどが挙げられます。サービス種別による違いは多少ありますが、ここ数年で半数以上の介護施設で「介護記録ソフト」を導入しているケースが増えました。よってケアプランをパソコンで作成、介護記録をタブレットでタッチ入力などの光景は最近当たり前となりつつあります。
科学的介護情報システムは作成されたケアプラン帳票内のデータを取得することが入口となり、厚生労働省にて用意された専用Webページを活用することも可能ですが、直接の「手入力作業」が発生することで、多くの介護事業者は介護記録ソフトのデータ提出機能を活用して対応しています。
国としては、全国の介護事業者から収集したデータを分析し、ケアプランを見直す際の「具体的アドバイス」となる情報を提供することで、介護現場の負担を軽減し、ご利用者お一人お一人に寄り添ったケアの質の向上を目的としています。1年半を過ぎたことで、全国で活用事例なども挙がっており、活用ノウハウを共有する取り組みも各地方自治体主体で始まっています。
≪ご利用者様目線でのメリット≫
ではご利用者様の目線にてお伝えします。
介護サービスは「ケアプラン=計画」に基づいた提供が求められます。ケアプランは一度作成して終わりではなく、ご利用者本人の状態などによって見直すことが義務付けられています。よりご本人様のニーズや状態を適切に把握し、ケアプランに反映させるために、過去のデータ(数値)と比較し参考にすることで、ケアプランの精度がより向上します。
栄養状態やリハビリ、ご本人の状態など、ケアプラン帳票の中で多くの項目が可視化されており、具体的な数値を比較することで説明を受ける側である利用者サイドのご理解も深まるのではと考えます。
“科学的介護”で介護現場が変わる!
ちょっとむつかしい話が続きましたが、ここでは介護現場の目線にてお伝えしたいと思います。
コロナ禍の影響もあり、ご家族様にとって、なかなか介護サービスの現場を目にする機会も減っているのではと感じています。報道等では介護現場の大変さや離職率の上昇などネガティブな話題が目立ちますが、「ICTを活用している介護現場」は大きく変わりつつあります。
≪介護現場スタッフ様の意識変化≫
介護記録ソフトの活用と併せて、科学的介護情報システムへケアプラン内容のデータ提出とフィードバック活用がすすむことで、介護職員の「意識の変化」を多くの現場で感じます。
介護業界ではパソコンやタブレットの操作が不慣れな職員も多く、「入力作業で手一杯」というケースも見受けられます。折角、頑張って入力したデータが活用されないと、当然ながらモチベーションも向上しません。数値で比較できるデータを見ることで、客観性が生まれ、業務に取り組む姿勢に大きく影響が出ます。ご利用者様のサービスに直結する直接介護実務の時間をしっかり確保し、その他関節業務を効率化することが結果として質の高いケアの提供につながるものと感じました。
今後の展望について
長くなりましたが、今回のテーマである「科学的介護情報システム」と併せて、ICTに関連する今後の展望についてお伝えします。介護業界のみならず、医療業界、ヘルスケア市場などこれからも「人の生活に係る分野」について、ますますICTの活用が加速します。ただ介護とはイコール「ご本人の生活=人生」そのものであり、必ずしも数値データに置き換らない部分もあることを承知しています。必ず「人が介在するサービス」として、ICTによる副次的効果と併せて、より良い人の暮らしを継続する支援として“介護サービス”があり、提供される介護事業者様に温かい目で接して頂ければと思います。