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心をつかむ認知症ケア技法「ユマニチュード」とは?
概念と基本技術

認知症介護をするなかで、「この対応でいいのだろうか」「もっと良いケアができるのではないか?」と悩むこともありますよね。
そんな時に参考にして欲しいのが、今注目されている認知症ケア技法「ユマニチュード」です。ユマニチュードは、ケアを受ける人とケアをする人の絆を重視し、お互いに「良かった」と感じる介護にします。

この記事では、ユマニチュードについて詳しく解説していきます。最後までお読みいただくと、認知症の人への関わり方や今から実践できることなどが分かると思います。

ユマニチュードとは?基本の知識

まずは、ユマニチュードとはどのようなものなのか基本となる知識をお伝えします。

ユマニチュードの概念

ユマニチュードは、2人のフランス人が生み出したケア技法です。主に高齢者や認知症の人に行われます。ユマニチュードは、フランス語で「人間らしさを取り戻す」という意味を持つ造語です。

ユマニチュードは、相手の心に寄り添うケアで、特別な道具や難しい技術は必要ありません。2012年に日本に導入されて以来、医療機関や介護施設などでも普及しつつあります。

ユマニチュードは「あなたを大切に思っている」ことを相手に伝える技法

ユマニチュードは、介護する人が「あなたを大切に思っている」ことを相手に伝える技法です。介護がうまくいかないのは、介護する人の気持ちの届け方に問題があると考えます。

高齢になり、認知機能が衰えてくると、一般的なケアであっても「嫌なことをされる」とか「やりたくない」などと拒否されがちです。
ユマニチュードでは、「あなたが大切だから、必要なケアを行いたい」という気持ちを伝えることができれば、相手は「自分は尊重されている」と感じるため、ケアを受け入れやすいとしています。

ユマニチュードの目的は「その人の能力を奪わない」

ユマニチュードでは、「何でもやってあげる介護」を推奨していません。
なぜなら、「本当はできるのに、代わりにやってあげる」ことで、その人が持つ能力を奪うことになると考えるからです。

たとえば、駅まで歩いて行ける人に、「転ぶと危険ですから、車椅子に乗ってください」とするケアでは、自力で移動する機会を奪ってしまいます。自力で移動しないと、「自力で移動できる能力」が衰え、できなくなってしまうでしょう。

そのため、ユマニチュードでは、「その人の能力を奪わない」ことを大事にし、本人ができることのサポートを行います。少しでも立ったり、歩いたりできるのなら、そうすべきだという考えです。

「本人のレベルに応じたケア」を提供する

ユマニチュードでは、「本人のレベルに応じたケア」を提供するのが基本です。
ケアのレベルは以下の3つに分類できます。

回復を目指す

ケガや病気の治癒を目標とするケアでは、主に以下を行います。

  • ケガや病気を治すためのサポート (服薬やリハビリなど)
  • できる部分は、自分でやってもらう(本当にできないところのみをサポート)

ケガや病気の程度にもよりますが、全面的にサポートをするのではなく、できる部分は自分でやってもらうように心がけます。

現在の機能を保つ

ケガや病気が治癒したら、今できることを少しでも長く続けられるようにします。
そのためには、少しでも立ったり、歩いたりができる場合は、歩けるところまで自力で歩きます。

途中までは自分で歩いて、歩けなくなったら車椅子を利用したり、援助を受けたりして構いません。ほんの少しの距離であっても、自力で歩くことができれば、歩く機能の維持に効果があります。本人の健康状態と機能のレベルを見極めて、できることは実践するのが基本です。

最後まで寄り添う

回復や維持が難しい場合は、本人が穏やかに過ごせるように寄り添うケアを行います。
終末期であっても、「自分でできることは自分でやる」のが基本です。パジャマのボタンが外せるなら自分で外すなど、本人の意思を尊重しながら部分的にできることをやってもらいます。

最期のその瞬間まで尊厳を奪うことのないように配慮し、強制的なケアにならないようにします。

ユマニチュードの4つの柱

ユマニチュードのケアを実践するうえで、基本となるのが、以下の「4つの柱」です。

  • 見る
  • 話す
  • 触れる
  • 立つ

1つずつ確認していきましょう。

見る

高齢者や認知症の人が認識する視野は狭いので、配慮が必要です。
相手が認識している視野に正面から入らないと気づいてもらえません。また、視野の外から突然話しかけると、驚かせてしまうので気をつけてください。

そのため話しかける時は、まず正面から近づいて相手の視線をとらえましょう。
見るという行為は、「どのように見るか」によって相手に伝えるメッセージが変わってきます。以下を参考に具体例をまとめました。相手にポジティブなメッセージを伝える方法を実践しましょう。

OK 相手にポジティブなメッセージを伝える(親密・愛情・平等など)
  • 正面から見て話す
  • 遠くから相手の視野に入り、ゆっくり近づいてから話しかける
  • 相手の視界に入るように、自分の位置を変える
NG 相手にネガティブなメッセージを伝える(支配・攻撃・恐れなど)
  • 横から話しかける
  • 近いところから視野に入る
  • 頭上から話しかける
  • 視線を合わせない(見ない)

話す

話す時には、声のトーンや言葉遣いに気をつけましょう。
人間はイライラすると、だんだん声が大きく、高くなる傾向にあります。「あなたを大切に思っている」という気持ちを伝えるためには、穏やかに優しく話しかけることを心がけましょう。

介護中はできるだけ、前向きになれるような言葉を選びたいもの。「○○しないでください」ではなく、「協力してくれてありがとう」などに言い換えるといいでしょう。

反対にやってはいけないのが、話さないことです。「話しても反応がないから」「何を話していいか分からない」と考えて、話しかけないでいるのは絶対にやめましょう。
沈黙は相手に「存在の否定」を感じさせます。無言になりそうな時は、以下を実践するといいでしょう。

①いま行っているケアを実況する

(例)「背中を拭きますね」「新しいパジャマを着ますね。サッパリしますね」

②相手のささいな変化を言葉にする

(例)「いま、深呼吸しましたね」「目が合いましたね」

触れる

ユマニチュードの触れ方の基本は、「広い面でしっかりと触れる」ことです。
赤ちゃんに触れる時のように、手のひらで優しく触れましょう。

気がついて欲しいからといって、指先でトントンと肩をたたくと、相手に否定的な印象を与えます。また、日常的な介護でやりがちなのが、「つかむ」行為です。着替えや移動などで、腕をつかむと、どこかに連れて行かれるような強制感・恐怖感を与えます。

そのため、体を動かす時には、広い面で優しく下から支えましょう。下から広い面で支えると、安心を感じてもらえます。

立つ

ユマニチュードでは、「立つ」ことをとても重視しています。
ベッドで一日中過ごすと、足や体の筋肉を使う機会が減り、いずれ本当に立てなくなってしまうためです。そのため、可能な限り、体を起こしたり、立ったりしてもらうようにしましょう。

ユマニチュードでは、「1日20分程度立つ時間を作れば、寝たきりにならずに立つ機能を維持できる」としています。

立つ時間である20分間は、一度に確保する必要はなく、1日のトータルで考えましょう。
着替えの時に2分、トイレに行く時に2分など、1日の中で立つ時間を少しずつ作り出し、1日が終わるまでに合計20分以上立てるようにします。

ただし、足の位置やバランスなど、立つ際に気をつけないといけないこともいくつかあります。
不安定な状態で立つと転倒の危険があるので、主治医やリハビリ療法士などの専門家に相談した上で計画を立てると安心です。

ユマニチュードケアの5つのステップ

ユマニチュードのケアを実践するにあたっては、以下の5つのステップを用いるとスムーズです。

  • ステップ1:出会いの準備
  • ステップ2:ケアの準備
  • ステップ3:知覚の連結
  • ステップ4:感情の固定
  • ステップ5:再会の約束

順番に解説していきます。

ステップ1:出会いの準備

まずは、自分の来訪を知らせ、「これからケア(あなたのプライベートな空間)に入る」ことを伝えます。
具体的な手順は以下のとおりです。

  1. 3回ノックする
  2. 3秒待つ(返事があったら、5.へ進む)
  3. 3回ノックする
  4. 3秒待つ
  5. 1回ノックしてから部屋に入る
  6. ベッドボードをノックする

認知症の人は、物事の判断や理解に時間がかかることがあります。そのため、ノックした後に待つことが大切です。

ステップ2:ケアの準備

ユマニチュードでは、ケアを始める前に準備の時間を設けます。出会っていきなり、ケアの話はしません。

まずは、「会えてうれしい」という気持ちを伝えます。伝え方は、ユマニチュードケアの柱である「見る」「話す」「触れる」を使い、相手と良い関係を築きます。
その後、20秒〜3分程度でケアについての合意を得ます。もし合意が得られなければ、ケアは行いません。合意が得られないケアは、たとえ必要性があったとしても「ケアの強制」になります。ユマニチュードでは、相手と良い関係を築くために、相手が嫌がることは行いません。

ステップ3:知覚の連結

ケアの合意が得られたら、実際にケアを行っていきます。
ケアのポイントは次の2つです。

  • 常に「見る」「話す」「触れる」のうちの2つを行うこと。
  • 相手の五感に与える情報は、常に同じ意味になるように伝えること。

出典:『ユマニチュード入門』本田 美和子, ロゼット・マレスコッティ, イヴ・ジネスト (医学書院),P114

大切なのは、「見る」「話す」「触れる」のうち、2つを行い、「あなたを大切に思っている」というメッセージを伝えることです。具体的には、「目を見ながら、優しく話しかける」「説明しながら、背中を撫でる」などが該当します。

ここで重要なのが、2つの行為とメッセージが矛盾しないことです。たとえば、「笑顔なのに、きつい口調」「優しい声なのに、腕をつかむ」などは、五感に対して矛盾したメッセージを送ることになります。

やってはいけないこと
  • 笑顔  (あなたを大切に思っている)+きつい口調(命令・強制・恐怖)
  • 優しい声(あなたを大切に思っている)+腕をつかむ(命令・強制・恐怖)

ステップ4:感情の固定

ケアが終わったら、「今行ったケアが心地良かったこと」「互いに良い時間を過ごせたこと」を振り返ります。

  • 「シャワー、気持ち良かったですね」
  • 「たくさん協力してくださいましたね」
  • 「たくさんお話しできて、楽しかったです」

ケアや共に過ごした時間が、ポジティブなものであったことを言葉で表現し、「この人は嫌なことをしない人」と感情に記憶を残します。感情の固定に必要な時間は数分程度です。

ステップ5:再会の約束

お別れの前には、必ず再会の約束をします。
「また明日来ますね」「今度は12時に来ますね」など、具体的に話すのがポイントです。たとえ、認知機能が弱っていたとしても、「また来ること」を明確に伝え、記憶にとどめてもらうようにします。

次に訪問する予定をメモやカレンダーに書き入れ、視界に入るところにおいてもいいでしょう。約束をすることで、次のケアを行いやすくします。

ユマニチュードの効果

最後にユマニチュードを行うことで、ケアを受ける人・行う人にどのような効果があるのかをお話します。

ケアを受ける人

ケアを受ける人に期待できる効果は以下のとおりです。

  • 精神状態が落ち着く
  • 攻撃的な症状が治まる
  • 認知症の症状の改善
  • 身体機能の維持

ユマニチュードは、ケアを受ける人にとって負担になることはせず、心に寄り添うのが基本です。そのため、不安や恐怖よりも、安心・信頼といったポジティブな感情を抱きやすくなります。

また、自分でできることは自分でやってもらうので、身体機能の維持効果も期待できます。

ケアを行う人

ユマニチュードを行うことで、ケアを行う人は、精神的な負担を減らすことができます。
介護は相手のために行うものですが、思うように進まないとイライラしたり、強引にケアをして自己嫌悪に陥ったりすることがあります。

ユマニチュードは本人が嫌がるケアをしないため、強引なケアはできません。「○○しなければ」という固定概念から解放され、無理強いをしないので、罪悪感を感じることも少なくなるでしょう。

ユマニチュードを実施するには、心と時間のゆとりが必要

ユマニチュードは、介護される人・介護する人のどちらも人間らしくいられる理想的なケア技法です。ユマニチュードを行うには、介護する人に余裕がないと難しいという側面もあります。ですから、無理せず、負担にならない程度で取り入れて、実践してみるのもいいでしょう。