認知症の方の口腔ケア・手順を解説
〜口腔ケアで生活の質を高めましょう〜
認知症の方だけに限らず、口腔ケアは健康を保つためにとても大切です。口腔ケアとは、歯磨きだけでなく、口腔機能(食べたり話したりすること)を維持することも含まれます。生活の質(QOL)を高めるためにも、口腔ケアは重要なのです。この記事では、認知症の方の口腔ケアをわかりやすく解説します。
認知症の方にとって【口腔ケアが大切な理由5つ】
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よく噛むことが健康の秘訣
しっかり噛んで食事をすることは、消化を助け胃腸の働きをよくします。そのためにも、きちんと歯磨きをして口腔衛生を保つことは大切です。 -
虫歯予防
虫歯は百害あって一利なし。認知症の方の歯科治療はなかなか大変ですし、虫歯が痛み、食事も取りづらくなれば健康にも影響します。 -
話しやすくなる
きちんと口腔ケアを続け、飲み込む力や口のまわりの筋肉をつけることで、話しやすくなり、コミュニケーションもとりやすくなります。話したり、口を動かしたりすることで適度な刺激が与えられ、脳が活性化するとも言われています。 -
認知症の進行を遅らせる場合もある
実際に口腔機能を維持していると、認知機能が低下する確率が低くなるという研究結果も出ています。(参考:東北大学による6年間の横断調査より) -
誤嚥性肺炎を防ぐ
誤嚥性肺炎は高齢者にとっては怖い病気のひとつ。飲み込む力が弱まる高齢者がかかりやすい病気です。口の中にある細菌が唾液や食べ物と一緒に気管から肺に入り、炎症がおきます。口腔内の衛生環境を保つことは、健康な生活を送るためにも、とても重要なのです。
認知症の方向け「口腔ケアの手順」
基本となる口腔ケア
認知症の方といっても、人それぞれ症状や状況が違います。また、日によってしっかりしていたり、時には歯磨きの仕方を忘れていたりと、変化することもあるので介護する方も注意が必要です。
まずは、笑顔で声かけをし、ご本人の体調や気分を確かめてから口腔ケアを始めましょう。
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うがい
首をあげてガラガラとするような“うがい”ではなく、ほほの中に水をためてブクブクするうがいをします。うがいも意外と難しい行為のひとつで、上手に水を吐き出せないようなら、無理をせずにケアマネジャーや専門家に相談してください。 -
(入れ歯がある場合)義歯の清掃
入れ歯は、専用の歯ブラシを使って洗い、入れ歯洗浄剤を使用します。 -
口の中(粘膜)・舌の清掃
舌ブラシやスポンジブラシを使って舌の奥から手前に向かって動かして汚れをとります。あまり力を入れすぎないように気をつけましょう。 -
歯磨き
歯ブラシは、鉛筆持ちにすると力が入りすぎずに磨きやすいでしょう。 -
うがい
最後にもう一度、うがいをしましょう。
口腔ケアは、寝たきりの生活なのか、ベッドの上で起き上がることはできる状態なのか、それとも介添をすれば洗面台まで行くことができるのか、など、状況によってお世話の方法が大きく違います。
かかりつけ医や歯科医、ケアマネジャーと相談し、適切な口腔ケアの方法を具体的に教えてもらいましょう。
在宅介護「家庭での口腔ケアで注意したい3つのこと」
1)必ずそばで見守り健康観察をしましょう
ご自身で歯磨きができる場合でも、そばで見守るようにしましょう。健康状態を確認するためにも、声かけをしながら見守って、なにか変化がないかを確認してください。歯磨きの行為そのものがわからなくなったり、通常とは違う行動をしたり、気になる変化があったらケアマネジャーやかかりつけ医に相談しましょう。
2)使用するものを間違えないように気をつけましょう
よくあるのが、歯磨き粉とチューブ入りのクリームを間違えてしまうことです。利用する歯磨き剤のみを、使い慣れたコップと一緒に同じ場所に置いておくと安心です。
3)「もう歯磨きをした」と言い張る時は
認知症の方が「もう歯磨きをしたのに」と言い張ることは比較的よくあります。このようなケースでは「まだやっていないでしょ!」と反論するよりも、たとえば、「そうだったわね。でもさっぱりするしもう一度磨きましょうよ」とさらりと受け流しつつ、勧めてみましょう。
認知症の方の口腔ケア・歯磨きで便利なグッズを使ってみましょう
スポンジブラシ
口腔用ガーゼ
ガーグルベース
うがいを吐き出すときに受け止めます。曲線は顎・首のラインにフィットし、使いやすい工夫がされています。
他にも次のような口腔ケアのグッズがあります。
- 入れ歯洗浄用ブラシ
入れ歯を洗浄しやすい形状のブラシです。 - 舌ブラシ
ガーゼでもいいのですが、専用の舌ブラシも使いやすいです。 - 歯磨きティッシュ
うがいができない方も指に巻いて口の中を拭き取ることができ、さっぱりします。 - 口腔ケア綿棒
細かい場所まで届き、口内の清掃に便利です。 - 泡立ちにくい歯磨剤
泡立ちしすぎず洗浄しやすい専用のマイルドな歯磨き粉です。
「8020運動」健康な歯と清潔さを保ち生活の質を高めましょう!
口腔ケアはお手伝いする人にとっては毎日のことで大変です。便利なグッズも上手に活用し、習慣化することによって、少しでも介護する方の負担を減らす工夫も大切ですね。
「80歳で20本の歯を保ち、自分の歯で食事をいただこう」という8020運動が提唱されています。
食事は生きていくための栄養をとることだけが目的ではありません。自分で噛み、味わい、「おいしいね」「これは好物なの」と家族や友人と話すことは、日々の暮らしにおける喜びであり楽しみでもあります。
「8020」(80歳で20本の歯)を達成した方は、生活の質(QOL)が高いそうです。いくつになっても、認知症になっても、食事をする楽しみ、食卓を囲む幸せを少しでも感じてもらえるように、口腔ケアもしっかり行いましょう。
もし、歯がグラグラしている、入れ歯を調整してほしい、口腔ケアについて指導を受けたいといった悩みがあれば、訪問歯科治療の利用もおすすめします。