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老人ホームの看取りを解説
入所者と家族へのケアの内容と流れ、注意点

2006年度の介護報酬改定で「看取り介護加算」が創設されたことにより、看取りの場所の選択肢として「老人ホーム」が加わりました。

しかし、「老人ホームで看取るのは薄情ではないか?」「本人が老人ホームでの看取りを嫌がる」として、思い悩んでいる人もいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事では、老人ホームでの看取りについて詳しく解説します。
老人ホームで受けられる看取りケアの内容を知ると、考え方がきっと変わるはずです。
後悔のない看取りにするためにも、ぜひ参考にしてください。

看取りの基礎知識

まずは、看取りについて確認しておきましょう。

ここでは、ターミナルケアとの違いや看取りの場所(医療機関・自宅・高齢者介護施設)の特徴を解説します。

看取りとは

看取りとは、病状の回復が見込めず、死が間近に迫っている人に対して、自然に亡くなる過程を見守ることです。

延命治療はせず、本人が希望する「自分らしい最期」を迎えられるように、息を引き取るまで身体的・精神的な苦痛を緩和するためのケアを行います。具体的には食事や排せつの介助や、床ずれの防止など、日常生活のケアが中心となります。

ターミナルケアとの違い

看取りと似た行為に、ターミナルケア(終末期医療)があります。
ターミナルケアとは、治療で回復が見込めない状態(終末期)に受ける医療・看護的なケアのことです。

ターミナルケアは「人生の最終段階における医療」とされていますが、延命治療ではありません。苦痛の緩和や「尊厳ある死」を迎えるための医療行為、例えば点滴や酸素吸入などが行われます。

看取りとターミナルケアの違いをまとめると以下のとおりです。

  延命治療・措置 医療・看護的なケア
看取り × ×
ターミナルケア ×

看取りの場所

看取りの場所の選択肢は、医療機関・自宅・高齢者介護施設の3つです。
それぞれの看取りの特徴について説明していきます。

医療機関

日本で最も多い看取りの場所は、病院などの医療機関です。2018年のデータでは、73.7%の人が医療機関で亡くなっています。

病院で最期を迎える場合は、基本的にターミナルケアが行われます。点滴や必要な看護ケアのほか、苦痛を和らげるための措置が行われることがあります。
また、医療機関では「患者本人に対するケア」が基本です。家族には病状の説明や処置の相談などが、必要に応じて行われます。

自宅

自宅で最期を迎えたいと考える人は多いですが、なかなか難しいのが実情です。
その理由として、看取り前後のケアが家庭では困難であることが挙げられます。
また、自宅での看取りは、大切な人が衰弱していく姿を見続けることになります。「こんなに苦しんでいるのに何もできない」と辛い思いをする人がいるのも事実です。
自宅での看取りを希望していた本人も、家族の介護負担が増えるのを目の当たりにすると「これ以上、迷惑をかけたくない」として、医療機関に移るケースもあります。

高齢者介護施設(介護施設・老人ホームなど)

冒頭で触れたように、介護報酬の変更もあり、高齢者介護施設での看取りも増えつつあります。要介護度が高い人が入居する特別養護老人ホームを終の棲家とする人も少なくありません。

詳しくは次章でお話しますが、高齢者介護施設での看取りは、入所者だけでなく、入所者の家族もケアの対象になります。家族の負担軽減だけでなく、本人が最期まで自分らしく過ごせるよう配慮されているのが特徴です。

老人ホームの看取りケアについて

高齢者施設の中でも、看取りを積極的に行っているのが老人ホームです。
ここでは、老人ホームで看取りはどのように行われるのか、具体的に解説していきます。

入所者に対する看取りケア5つ

入所者に対して行う代表的な看取りケア5つをご紹介します。

安心・安全・安楽な環境の整備

入所者が「安心・安全・安楽」と感じる環境を整えます。
個室の人は、住み慣れた部屋で最期まで過ごすのが基本です。多床室の場合は、個室や静養室に移動することも多いですが、入所者や家族の意向で「いつもの部屋」に留まることもできます。

安心・安全・安楽な環境とは?
  • 住み慣れた部屋である
  • 適度な温度・湿度が保たれている
  • 照明や日差しの調整をする(生活リズムを保てるようにする)
  • 掃除や換気を行い、常に清潔を保つ
  • 入所者の好きな物や家族の写真などをそばに置く……など
清潔の保持

最期まで尊厳を保って過ごせるように、清潔保持のケアを行います。

清潔保持のケア
  • 入浴または清拭
  • 朝晩の洗顔
  • 口腔ケア
  • 洗髪
  • 着替え
  • シーツ交換
  • 爪切り……など

入所者の身体状況を確認しながら、本人が「心地よい」と感じるような方法でケアします。体を清潔にすることは、皮膚の生理機能の保持や細菌感染の防止などにつながるだけでなく、入所者の尊厳を守るためにも重要です

食事は入所者の意向に沿って提供

食事は入所者の意向に沿って提供されます。
基本は「食べたい時に、食べたいものを、食べたいだけ」。飲み物の提供も同じです。
最期まで食べる喜びを味わえるような環境を作る一方で、水分や食事が摂れなくなっても本人の意向に沿わないのであれば、無理に勧めることはしません。

質の高い排泄ケア

排泄はとてもプライベートでデリケートなケアです。そのため、入所者がどんな状態になっても、入所者の尊厳を守り、羞恥心を傷つけないように細心の注意をもって行われます。

質の高い排泄ケアとは?
  • 排泄の状況に応じて、排泄方法やケア方法を決める
    (排泄介助やおむつ・尿取りパッドを使用する時間帯の検討など)
  • 排泄の回数や量などを観察し、記録する
  • 必要に応じて腹部のマッサージや浣腸などを行う
  • 排泄介助時は、プライバシーに最大限配慮する
苦痛の緩和

死が迫ると、発熱や倦怠感、吐き気など、身体的な苦痛に襲われることがあります。
老人ホームでは、身体的苦痛を完全に取り除くことは困難です。しかし、適切なケアを行うことで緩和に努めます。

さらに、死への恐怖から引き起こされる精神的苦痛に対するケアも同時に行われます。
人間の五感で最期まで残るのは聴覚とされ、眠っているように見えても、周囲の音や声は聞こえていると考えられています。そのため、老人ホームでは、入所者の意識がない状態でも必ず気遣いのある態度で接し、優しく声掛けを行います。

身体的苦痛に対するケア
  • 快適に過ごせるような環境を整える
  • 安楽な体位を保つ
  • マッサージや温シップを使う
  • 発熱や嘔吐がある場合、適切な対応を行う
精神的苦痛に対するケア
  • できるだけ1人にしない
  • 訪室回数を増やす
  • 手を握る、マッサージなどのスキンシップをとる
  • 音や話す内容に気をつける
  • 付き添いの家族に声かけをしてもらう
入所者の家族に対するケア

入所者が安心して最期を迎えるためには、家族の力が不可欠です。老人ホームでは、入所者だけでなく、家族のケアも行います。

看取り前の精神的ケア

家族は大切な人を失う恐怖や不安を抱えています。
特に看取り期になると、大切な人が衰弱していく姿を見るので、ショックを受けたり、冷静でいられなくなったりすることがあります。
老人ホームでは、家族の不安や辛い心情に寄り添った対応をしてくれます。

また、老人ホームでは、家族に対して入所者の状態を分かりやすく伝えます。
今何が起こっているのかだけでなく、これからどのようなことが起こるのかが分かると、現在の状態が「死に向かう自然な姿である」ことが理解できるからです。気持ちを落ち着けるきっかけにもなるでしょう。

看取り前の精神的ケア内容
  • 入所者の状態を正しく、分かりやすく伝える
  • 家族の話に耳を傾ける
  • 家族が気持ちを打ち明けやすい雰囲気をつくる
  • 不安や動揺している場合、気持ちに寄り添う
付き添いのための環境整備

看取り期は、家族が付き添うことが多くなります。
そのため、家族と入所者が周囲に気兼ねなく安心して過ごせる環境を整えます。

付き添いのための環境整備の例
  • 家族と入所者だけ過ごせる部屋を提供する
  • 夜間の付き添いができるように、宿泊室や簡易ベッドを用意する
  • ナースコールの使用法やトイレなどの設備の説明

付き添いの家族が滞在時に困らないように、最大限の配慮をします。

看取り後の精神的ケア(グリーフケア)

大切な人との死別は、心に喪失感を引き起こします。一方で、現実を受け入れて立ち直ろうとする気持ちもあり、感情が不安定になるでしょう。
老人ホームでは、家族の心情に寄り添い、喪失の負担軽減のために、看取り後の精神的ケア(グリーフケア)を行います。

グリーフケア(一例)
  • グリーフカード(弔電や手紙)を送る
  • お通夜や告別式に参列
  • 遺族訪問

老人ホームでの看取りの流れ

老人ホームでの看取りの流れを把握しておきましょう。

入所期:看取りケアの方針を決める

老人ホームでの看取りケアを希望する場合は、あらかじめ看取りケアの方針を決めておきます。

看取りケアの方針(一例)
  • 看取り介護に対する考え方
  • 施設で提供する具体的な看取りケア方法や設備
  • 医療体制や連携の医療機関について

上記を理解・納得したうえで施設入所を決めましょう。
看取りケアを申し込む時に「事前の意向確認書」が必要になりますが、これはあくまで現在の意向を確認するもの。「心臓や呼吸が止まったらどうするか」「食事や水分が摂れなくなった場合」などの細かいシチュエーションについては、いつでも変更可能です。

安定期・不安定期:入所者の状態に変化がある

入所者の状態が変わるごとに、入所者本人の希望と家族の意向を確認します。
ベースとなるのは、初めに決めた看取りケアの方針ですが、途中で意向が変わった場合には変更できます。

安定期 入所者の状態が安定している状態
不安定期 入所者の状態が不安定・低下している状態

終末期:死期が近いと考えられる状態

死が訪れる1週間くらい前から、食事や水分がほとんど摂れなくなります。

死期が近いと考えられる状態
  • ずっと目を閉じている
  • 眠っている時間が長くなる
  • 反応が少なく、発語が減る
  • 食事や水分がほとんど摂れない

回復が見込めないと医師が判断すると、看取りケアに移行します。

看取り期:家族の同意を得て、看取りケアを行う

看護師や医師が家族に死期が近いことを伝え、看取りケアの同意を得ます。家族の同意が得られない場合は、看取りケアは行わず、提携の医療機関などへ搬送となります。

看取り期の入所者の状態
  • ほとんど反応がなくなる
  • 呼吸のリズムが不規則になる
  • 一日中、眠っている状態になる

老人ホームの看取りで注意すべき点

最後に、老人ホームの看取りで注意すべき点をまとめました。

入所者の状態によっては医療機関で最期を迎えることもある

看取りケア希望でも、入所者の状態によっては医療機関で最期を迎えることもあります。
医師が「治療が必要」と判断すると、看取り期であっても医療機関へ搬送される可能性があります。

納得できるケア方針・体制の施設を選ぶ

老人ホームによって、看取りケアの方針や体制は異なります。
看取りを希望する場合は、入所前に必ず施設の方針や体制を確認しましょう。本人や家族が納得できる施設を選ばないと後悔する恐れがあります。

後悔しない看取りのためには、意向を共有すること

看取りの場所には、それぞれメリットとデメリットがあります。
家族で話題にしにくい看取りですが、本人と家族が後悔しないためには、しっかりと話し合い、意向を共有することが大切です。