老人ホームでの
人間関係トラブル事例と対処法
「3人寄れば文殊の知恵」と言いますが、「3人集まれば派閥ができる」などとも言われます。複数の人と「ひとつ屋根の下」で暮らすとなれば、大なり小なりのトラブルは実際にあります。
老人ホームへの入居を検討している方にとっては気になるところでしょうし、入居中の方にとっては他人事ではないかもしれません。結論から言えば、老人ホームに入居してもしていなくても、人間関係のいざこざはあるもので、それこそ「人との交わりがある証」でもあります。
とはいえトラブルはなるべく避けたいですよね。今回は老人ホームでよくある人間関係トラブルについてまとめてみました。
老人ホームのよくある「人間関係トラブル」4つ
老人ホームのよくある人間関係トラブル4つ
- 悪口によるもの
- 他の入居者との距離感や、対応の難しさによるもの
- スタッフとの人間関係によるもの
- 恋愛感情によるもの
1.「悪口」
事例
- 自分が作った“ちぎり絵”を見て「色が悪い」「センスがない」と言うので口喧嘩になってしまった。
- 「安物の服ばかり着ている」「ケチ」と話しているのを聞いて頭にきたので言い返した。
- 静かに暮らしたいだけなのに「偏屈」のように言われたので、「おせっかいでおしゃべりな人だね」と言ったら、悪口の応酬になってしまった。
人と人とが交流すれば、いずれどこかでなんらかの「ちょっとした悪口」は耳にします。自分が言われる側になることも、言う側になることもあるのだと、それが人間なのだとさらっと受け流すことができればそれが一番です。
しかし、度を過ぎる罵詈雑言となれば話は別です。やめてほしい旨をきっぱりと伝え、スタッフにも状況を伝えて注意してもらうようにしましょう。対応が難しいときは我慢せず、ご家族に話して、ご家族からホーム側へと連絡してもらうといいですね。
また、ご家族の方は、面会が難しい場合でも定期的に電話で本人と話して、どんな状況か、何か困ったことや嫌なことはないか、と聞いてあげましょう。誰でも何かしら不満を持っているものですが、それを吐き出させてあげることで余計なトラブルの種を作らないことも大切です。
2.「他の入居者との距離感や、対応の難しさ」
事例
- 私のスカーフを自分のものだと言い張るので困ってしまった。
- 何か気に入らないことがあると怒鳴る声に、いつもビックリして落ち着かない。
- 3人で話していたらいきなり割り込んできて、まったくわからない話をしてくる。
このようなことがあるとうんざりされてしまう気持ちもよくわかります。
例えば、今まで生きてきた中で自分が接したことのないようなタイプの人がいたり、患っている病気の影響で他の方から見ると驚くような言動をする人がいたりすることがあります。このような時の対応に悩んでいるとしたら、単純に関わりを持たないようにするとか、すっとその場を離れるとか、簡単なことで避けられるのであれば「これも対応力のひとつ」と前向きに割り切って考えてみてはいかがでしょうか。
ご家族の方はそのような話をご本人から聞いたら我慢するように言い渡すのではなく、「それは大変ね」とまずは受け止めてあげてください。そしてホーム側に状況を確認し、何らかの対応ができないか相談してみましょう。
3.「スタッフとの人間関係」
事例
- あるスタッフがなぜか自分のことを嫌って、意地悪をしてくる。
- 配膳で私にだけガシャンと音をたててコップを置いたり、わざとらしいため息をつくのが気に障る
- 頼みごとをしてもハイハイと言うだけで何ひとつ行ってくれない。
ホームのスタッフとのトラブルは、思い込みや勘違い、考えすぎといった面があるのも事実です。「急いでいて、たまたまちょっと乱暴にコップを置いてしまった」だけだったけれど、相手にとっては威嚇のように感じた、などというトラブルも時折見受けられます。他には、利用者とスタッフのお互いの相性によるところも大きいようですね。
スタッフとの問題であれば、そのスタッフ以外のスタッフや上司にあたる人に相談してみましょう。話しづらいことであれば、ご家族や身内からホーム側に伝えるようにしましょう。
4.「恋愛感情」
事例
- 同じフロアの80代の男性が執拗に自分に言い寄ってくる。
- 互いに好意を抱いており楽しく過ごしていたのに、自分が他の女性スタッフと親しく話しているのを見たといって、みんなの前で泣かれたので困ってしまった。
- 穏やかに生活したいのに、恋心を綴った短歌や詩を書いては手渡される。無視していると、今度は花束などを部屋の前に置かれてひどく恥ずかしい思いをした。私はまったく関係ないし、関わりたくもないのに。
恋愛感情は何歳であってもワクワクするものであると同時に、何かとトラブルの元になりやすいのも事実です。一方的に感情を持たれることもあるので、困ったらスタッフに相談し、食事の時間をずらす、同じレクリエーションには参加しない、といったような物理的な距離をとる対策を考えてもらうといいですね。
寂しさを分かち合ったり、同じ趣味を持つ人に特別な親しみを持つことは少なくありません。恋愛感情自体は悪いことではなく、張り合いや活力の源になることもあります。ご両親の恋愛話ともなると、耳にしたご家族としては複雑かもしれませんが、おおらかに受け止めつつ、様子は注意深く見守って大きなトラブルになる前に対応していきましょう。
大きなトラブルになる前に相談しましょう
- スタッフやホームの責任者に相談をする
- 家族(身内)に話を聞いてもらう
それでも解決しないときは、第三者に入ってもらうことや、自治体の相談窓口を利用することもできます。
人間関係トラブルは見極めが大事
もし入居している本人から「ホームでいじめられている」「悪口を言われてつらい」などと相談されたら、最初にじっくり話を聞いてあげましょう。これは何も老人ホームだから、高齢者だからといったことではありません。
ご本人の話を受け止めてあげるだけでも、次第に落ち着きを取り戻し冷静に考えられるようになることはよくあります。
その上で、それが単に「性格が合わないから頭にきているんだな」「相性が悪い相手がいて口喧嘩になってしまうようだ」とわかれば、「その気持はよくわかるよ」と共感しながら、必要に応じてホーム側・スタッフに、より注意深く見守ってほしいといったお願いをするのがよいでしょう。
しかし、暴力的なことがからむ場合や、金銭のやりとりでのトラブル、あるいは一方的な誹謗中傷でひどく傷ついているような場合は、ご家族の代表者がホーム側にはっきりと状況を伝え、なんらかの対応をしてくれるようにお願いしましょう。
一緒に暮らしていないご家族にはわからないことが多い分、不安にもなるでしょうし、何が真実なのか判断しづらいのも事実ですから、こうしたトラブルは早めに相談することがポイントになります。
ホームのスタッフは、入居者同士のトラブル等は経験しており、きちんと対処してくれるはずです。もしそうでない場合には、ご家族がしっかりとホーム側に対応を求める姿勢も必要です。
喜怒哀楽という感情の揺れは生きている証
多くの人が共に暮らしていれば、どうしてもある程度のトラブルは避けられません。しかし、同時に人間関係のトラブルがあるということは、孤独ではないということでもあります。
喧嘩するほど仲がいい、などとも言いますが、ケンカ相手がいなくなったとたんにガックリと気力がわかなくなってしまうこともあります。人と共に生きることの大変さと楽しさは表裏一体であり、「いいこともあれば悪いこともある」とおおらかに受け止めたいところです。
交流することのメリットも大きいので、トラブルばかりに目を向けずに、全体的に考えることも必要です。人生経験の豊富なシニア世代として、良いことも悪いことも、うまくいくときもいかないときもあることは充分に理解しているのですから、周囲が気持ちに寄り添うだけでも、トラブルが改善することも珍しくありません。
喜怒哀楽という感情の揺れは人として当たり前のことです。
ご本人ならば、ひとりで抱え込まずに誰かに話すこと、そしてご家族であれば、まず話を聞き、共感しながら本質的な問題を見極めて解決策を探るのが何より大切です。