老人ホーム「入ってよかった?」体験者の声をご紹介
老人ホームへの入居を検討している方としては、すでに老人ホームに入居した方や、老人ホームに家族を入居させた方に「実際に入居、生活してみてどう感じたのかについて聞いてみたい」と思う方が多いのではないでしょうか。
- 老人ホームに入居してよかった?
- 不安や不満点はあった?
- 乗り気でない親にどう施設入居をすすめたの?
- 老人ホームに親が入ったあと家族に変化はあった?
このようなことについて、現在実際に老人ホームに入居している方にメールや電話、オンラインで取材しました。
良かった点だけでなく、迷ったことや不安に思ったこともたくさん話していただきましたので、今回はその中からいくつかピックアップしてご紹介します。
新しい人生に向かって舵取りをしていった4つのご家族のケースです。きっと参考になると思います。
老人ホーム入居を決めた方の声
質問したこと
- 老人ホームに入居してよかったことは?
- 具体的によかったこと、不安や不満なことについて
- 周囲の友人に老人ホームを勧めるか?勧めないか?その理由は?
〈老人ホーム体験談〉新しい趣味ができて、楽しい
N・Kさん:女性78歳/76歳で入居・自分で決断/
- 良かったこと
誰かがいるという安心感と、自分で選んで決めたので納得した老後を過ごしていること、そしてレクリエーションで新しい趣味をみつけ楽しみができたことですね。
- 具体的なよかったこと、不安や不満に思っていること
最初はリズム運動のようなレクに参加するのに抵抗がありました。ただ、ずっと部屋にこもるのもどうかと思い、絵手紙の体験会があったので参加してみました。もともと絵を描くのが好きだったので夢中になってしまい、あっという間に時間が過ぎました。
ひとりで家にいた時は1日が長く、ただずっとテレビを見ていただけでしたが、今は家族や友人に毎週季節の絵手紙を送り、返信がくるのがとても楽しみだし、同好の仲間もできて、変化のある毎日です。
不安などはありませんが、ひとつ不満というか面倒だと思うのが外出時。絵の具や和紙など店に行って選びたいのですが、私は健康で持病もないけれど、外出となると事前に手続きが必要です。何時から何時とか、どこへ行くとか。ホームの人が確認して許可が出ます。「そうだから安全安心なんだ」と息子たちは言いますけどね。思い立って出かけたい時とかもあるので、そこだけがちょっと面倒だなと感じます。
- 周囲の友人に老人ホームを勧める?勧めない?その理由は?
夫を亡くした時から、家は処分し、老人ホームに入ろうと決めていました。息子ふたりにはある程度決まってから相談はしましたが、自分で選び、決めたことでスッキリしています。70代のうちなら、自分でいろいろな施設に行き、自分で決断できるので、早めに考えることをお勧めします。
〈老人ホーム体験談〉最適な決断だったと思う
S・Oさん:男性82歳/79歳で夫婦で入居・家族からの勧め/
- 良かったこと
「この先はどうなるのか…」といった将来への不安がなくなったのがよかったですね。嫁に行った一人娘に負担をかけずに老後を過ごせるのが何よりです。
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具体的な良かったこと、不安や不満に思っていること
妻が足腰を悪くしてからというもの多少呆けたところもあり、家の中がどんどん汚れて、食事も適当になってしまい、気持ちも落ち込んでしまいました。施設を探し、いざ決断するとなると正直、気持ちが揺れたのも事実です。入居前は経済面の不安もありましたね。娘には少し残してやりたい気持ちもあり、老後の資金という面で大丈夫なのか全く分かりませんでした。当時住んでいた地域の相談員と資金計画のようなものを話し、具体的な予算を決めるとイメージがついてきました。入居先の具体的な検討には娘も手伝ってくれて心強かったです。
入居してからは特に不満はない。妻の具合が悪くなったときもすぐに対応してもらえましたし、食事もとてもおいしいです。うまく言えませんが、「最高」とまで思わないもののこれでよかったのだとは思います。
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周囲の友人に老人ホームを勧める?勧めない?その理由は?
家族みんなに囲まれて家で大往生が一番と思っていたましたが、娘との同居は無理だし、現実をみれば老人ホーム入居は理想通りではないが、最適な決断だったと思います。大きな家に家族みんなで暮らしているならよいが、そうでないのであればホームへの入居をお勧めします。
老人ホームに任せてよかった!家族の声
続いて、ご家族や身内の方を老人ホームに入居させた家族の声です。
- 入居前の状況
- 老人ホーム入居を考えたきっかけ&どう本人に勧めたか
- 実際に入居して家族や本人にどんな変化があったか
〈老人ホーム体験談〉離れたことで絆が深まることもある
E・Wさん(63歳:母88歳)
- 入居前の状況
完全分離の二世帯住宅。父親が亡くなったあと、母が1階で暮らしてきたがケガがきっかけで在宅介護となった。
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老人ホーム入居を考えたきっかけ&どう本人に勧めたか
妻の更年期がひどくなり、介護疲れで体調を崩したこと。あるとき妻に「あなたのお母さんのことをどんどん嫌いになってしまう自分自身がイヤになる」と言われ愕然としたことがきっかけですね。在宅介護には限界があるし、今はまだいいが、この後のことを考えると、正直に言って自分達にかかる負担が大きすぎると思いました。要するに、今以上に楽になることはないわけですから。
とはいえ入居となると逆に妻は「自分があなたの親を追いやるようで、なんだか辛い」と言いだし、実際に入居するまでは夫婦ともに気持ちが揺れ動くことがあり、時にはケンカにもなったし(そもそも妻を楽にさせるために決めたことなんだ、と言ってしまったのが自分の反省点)、妹からは「お母さんとずっと同居して面倒見てくれると思っていたから二世帯住宅に反対しなかった」とか言われたりもして、まあいろいろと大変だったなぁと思います。
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実際に入居して家族や本人にどんな変化があったか
実際に入居したら、母も楽しそうだし、私たち夫婦も昼も夜も「下(の階の母)は大丈夫だろうか」と不安を抱えるストレスが解消されました。今は年に数回は外泊許可をもらって、母の好きな温泉に一泊二日で一緒に行っています。私たちも余裕ができたから、旅行中はすべて母のための時間として、ぴったり一緒に過ごしていますが、とても喜んでくれますね。反対していた妹も面会に来て、施設がきれいで中庭などホテルのようだと驚き、「このほうがお母さんもずっと安心で幸せかも」と納得してくれました。距離をとることで、逆に関係がとても良くなった、家族の絆はライフステージによって変化するのだなぁとしみじみ感じています。
〈老人ホーム体験談〉父の希望にあった施設を見つけた
A・Mさん(60歳:母86歳、父84歳)
- 入居前の状況
86歳の母、84歳の父が地方住まい(自宅から車で2時間程度)
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老人ホーム入居を考えたきっかけ&どう本人に勧めたか
よく電話がかかってくるようになり、つじつまのあわない話があったり、ご近所の方から連絡をもらったり、ちょっと二人で生活させるのは難しいと感じて。「また、ばーさんが鍋焦がした」などという話を聞けば、父は笑っていますが、こちらは笑ってもいられない。それに平日の11時とかに普通に私に電話してくる。昔なら息子が会社にいる時間帯とわかっていて、電話なんてかけてこなかったんですけどね。
まぁちょっと、これはまずいなと思って、老人ホームの話を何度か切り出したが、いつも「お前達には迷惑かけんから心配すんな」と言われてしまい、うやむやになっていました。
しばらくして、体力がきついから趣味と実益をかねていた畑を手放すと聞いて、良いきっかけだと思い、パンフレットなども持参し老人ホームを勧めてみました。母親は家事がしんどいらしく賛同の意を示していましたが、父親があまり乗り気ではなかったんですね。「わしはイヤだな」とけんもほろろでした。でも畑も人に渡してしまってみると、これといってすることもないわけですし、母親から実は父が夜、パンフレットを見ていると聞き、ここでもうひと押ししてみようと。
妻が専用庭つきの部屋があるサービス付き高齢者向け住宅を探してきてくれたので、誘ってみると、渋々ですが付いてきてくれました。いざ見てみると、アットホームな老人ホームでスタッフの対応も気さく。話好きの母は、聞いてくれる相手が見つかり喜び、「小さくても庭があれば何か植えられるな」と父親の態度も軟化。そこからはすんなりと入居まで進みました。とはいえ、手続きや残った家の処理など私たちが行うことが案外多く、落ち着くまでは毎週末なにかしら用事がある感じでしたね。
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実際に入居して家族や本人にどんな変化があったか
今は食事の支度などに煩わされず、母もホッとしているようです。庭つきの部屋は1階に4つほどあるのですが、皆さん園芸好きらしく、それぞれサロンで園芸自慢をしているらしい(笑)。
老老介護などと言われますけど、自分たちが動きやすい年代のうちに親を安心した環境で過ごせるようにしてあげられてよかったですよ。なぜなら自分たちの老後も実はすぐにやってくるからです。私自身は今回の体験で、子ども達には面倒なことをやらせたくないので、妻と一緒に70歳になったら、ふたりで気に入るような海の見える風光明媚な老人ホームを探そうねと話し合っています。
人生100年時代に「これからスタートを切る」新しい生き方へ!
「老後一日も楽しまずして むなしく過ごすは惜しむべし。老後の一日 千金にあたるべし」貝原益軒
この言葉は福岡藩の儒学者である貝原益軒が、自らの体験をもとに長寿や心の養生について書いた本「養生訓」に記された言葉です。
これからの一日一日は若い頃よりもずっと価値のある一日になるからこそ、心地よく過ごせる終の棲家を見つけることはとても大切です。快適なサービスと安心の老人ホームで、より豊かな人生を過ごしてほしいですね。
貝原益軒が上記の「養生訓」を書いたのは、益軒が83歳の頃と言われています。70歳近くまで藩に仕え、引退してから後に彼は多くの著書を残しています。晩年になってから、貝原益軒はもうひとつの新しい人生を歩みました。
取材に協力いただいた皆さんも、異口同音に「これから」について語ってくださいました。
老人ホームに入ることは、住居を変えるだけでなく生活や暮らしも大きく変わります。それをきっかけにして新しい人生をスタートする、と考えてみてもいいのではないでしょうか。
引用:養生訓/貝原益軒著・伊藤友信翻訳/講談社学術文庫