NEWS LETTER : もう一度、家族になれた日 ~別れとともに訪れた、新たなはじまり~
ALSOK介護株式会社(本社:埼玉県さいたま市、代表取締役社長 熊谷 敬)では、介護現場における生産性向上とお客様の「自分らしい生活」の実現に向けた取り組みを、本社社員による取材形式で紹介してまいります。
当社は、お客様が社会から孤立しないために、たとえ小さくても人から必要とされている、頼られている機会をデザインし、社会の一員としての役割を失わせない支援を行っています。
今回は、埼玉県北本市にある「介護付有料老人ホーム みんなの家・北本中丸」(以下、「みんなの家・北本中丸」)のご利用者様とご家族様の関係が、新たに生まれ変わった瞬間の物語を紹介します。
【Part.1】突然の悲報
物語は一本の電話から始まりました・・・。
「ホーム長、お久しぶりです。実は母が突然亡くなりまして…」
連絡の主は、施設に入居しているB様の娘様。ご入居以来、ほとんどやりとりがなかった方でした。B様の奥様とは電話でよく話していたものの、元気で明るい印象しかなかったため、木村ホーム長は突然の訃報に驚きを隠せませんでした。
続いて娘様からの相談がありました。
「母の死を父に伝えてほしい。そして、できれば父を葬儀に連れてきてほしい。」
B様はかつてご家族様から「自己中心・亭主関白・頑固おやじ」と評される怖い存在。子どもたちとは疎遠になり、特に息子様とは絶縁状態にありました。母親の死をどう伝えるか、葬儀にどう連れて行くか…家族には恐怖でもあり、とっても大きな悩みだったのです。そのことを知っていた木村ホーム長は、外部業者に依頼して葬儀にお連れするだけで、B様とご家族様との再会がよいものになるのだろうか、不安が拭えませんでした。
そこで木村ホーム長は言いました。 「葬儀には私も一緒に行かせてください!」
相応のサービス料は発生しますが、木村ホーム長は何とか娘様の期待に応えたいと考えたのです。すると娘様は涙を流し、「母も喜びます」と答えてくださいました。
【Part.2】葬儀の日
そして迎えた葬儀の日、木村ホーム長とともに出発したB様は道中ほとんど言葉を発さず、ただ窓の外を見つめていました。葬儀場に到着しても、息子様や親戚との会話は少なく、気まずい空気が漂います。それは「来なければよかったのでは…」とさえ思えるほどでした。
しかし、葬儀、火葬、お清めの食事と時間が経つにつれ、少しずつ空気が変わっていきます。最初は、木村ホーム長を介しての会話しかなく、言葉もぎこちなかったB様とご家族。けれども、お膳を囲む場面で「これ美味しいな・・・」とB様がつぶやくと、息子様も「これ食べるか?」と応じ始め、自然とご家族同士で言葉が交わされるようになりました。やがて娘様は涙ながらに言いました。
「父は以前に比べて優しい表情になり、別人のようです。今日は本当に来てもらえてよかった!今度は兄と一緒に北本に行きます。」
別れの儀式は、絶縁していた家族をつなぎ直す時間になったのです。
そして帰りの道中――。
B様は眠ることなく、じっと目を開けたまま外の景色を見つめていました。
長い静けさの中に、言葉にできない思いが滲んでいました。
【みんなの家・北本中丸 木村ホーム長インタビュー】
Q. 突然の電話を受けたとき、どんなお気持ちでしたか?
木村ホーム長: とにかくびっくりしました! 奥様は電話ではいつも元気な方でしたから…。その直後に「父を葬儀に連れていけるか?」という相談を受け、正直パニックでした(笑)。でも、外部業者に任せるのではなく、自分が行くべきだとすぐに思いました。
Q. なぜホーム長ご自身で行こうと?
木村ホーム長: 奥様に直接お別れを言いたい気持ちもありましたし、費用や段取りの現実もありました。でも一番は「本人と家族を笑顔にしたい」という思いです。お送りするだけではできない寄り添いを届けたかったんです。
Q. B様に訃報を伝えた場面を教えてください。
木村ホーム長: 居室のベッドの上で横並びになり、身体をピタリと寄せて座りました。そして、言葉を選びながら丁寧にお伝えしました。驚きはありましたが意外と冷静な声で、「これからどうすればいい?」と聞いてくださいました。そして印象的だったのは、最初に出た言葉です。
「娘は大丈夫かな?」。
その言葉に“やっぱり父親なんだな”と思いました。
Q. 葬儀当日の印象的な場面は?
木村ホーム長: はい、やっぱりお清めの席ですね。最初は本当にぎこちなくて、私を介しての会話ばかりでした。ところがB様がふと「これ美味しいな・・・」とつぶやかれたその料理を、息子さんが「親父、これ食べるか?」と取り分けて差し出した。やがて自然にお酌をし合う光景が広がり、気づけば家族同士で普通に言葉を交わすようになっていました。あの場面が、この日を象徴していたように思います。
Q.ご家族からの言葉で印象に残ったことは?
木村ホーム長: 娘様が「父は別人のように優しくなった」と泣いてくださったこと。そして「今度は兄と一緒に北本へ行きます」と言ってくださったことですね。これは本当に大きな一歩です!。
Q. その後、B様ご本人に変化はありましたか?
木村ホーム長: ありました!。認知症をお持ちの方ですが、この葬儀の日のことは今もとてもよく覚えていらっしゃいます。そして、以前は「家に帰る!」と何度も口にされていたのが、この日以降一度も言われなくなったんです。ここで最期まで生活する覚悟ができたのだと、私は感じています。
Q. 終わってみて、どう感じましたか?
木村ホーム長: 行くまでは本当にしんどかったです。でも終わってみれば“やっぱり行ってよかった”。
ご本人もご家族も笑顔になってくれた!。それが一番の報酬です(笑)。
Q. 最後に、介護の仕事の意味を改めてどう感じますか?
木村ホーム長: 介護は“笑顔をつくる仕事”だと改めて感じました。今回はご本人だけでなく、絶縁していたご家族までも笑顔にできた。寄り添うことで、人生の最終章に“納得”を届けられる。その瞬間に立ち会えること、これは、介護職の誇り!。だからこそ、これからも ‶お客様に寄り添い続ける介護”を続けていきたいと思いました。
【編集部まとめ】
葬儀という人生の節目に立ち会うことは、介護職にとって決して容易なことではありません。けれども、「つなぎ、寄り添う」ことで、本人には“納得”が生まれ、家族には“再会”の一歩が刻まれる。その瞬間は、たとえ短くても永く心に残り、これからを支える力になります。
介護の現場で私たちが担うのは、日々の暮らしを整えるだけではありません。その人の歴史や家族の思いに触れ、ときには人生の大きな岐路を共にくぐり抜ける伴走者になることがあります。今回の出来事は、介護が「人生を支える仕事」であることを強く実感させてくれました。
編集部:ALSOK介護株式会社
事業管理部 教育研修課