どんな医療ケアが受けられるの?
知っておくべき老人ホームの医療体制
健康面に不安があると、老人ホーム選びはより慎重になりますよね。
「持病があっても老人ホームに入居できるの?」
「老人ホームでは、どこまで医療が受けられるの?」
このように気になっている人も多いのではないでしょうか。
安心して暮らせる施設を選ぶためには、老人ホームの医療体制を知っておくことが重要です。
たとえ今は医療ケアの必要がなくても、高齢になると誰もが病気や怪我をしやすくなるものです。いざというときに慌てないためにも、しっかり理解しておきましょう。
老人ホームで受けられる医療行為・医療ケア
老人ホームでは介護職員や看護職員が、認められた範囲内で、医療行為・ケアを行います。
施設内に医師がいる場合は、診察や簡単な医療処置なども可能です。
しかし、老人ホームは介護施設なので、医療機関のような医療は受けられません。そのため、高度医療や処置が必要な人は入居を断られることがあります。
ここでは、介護職員、看護職員、医師、それぞれが行うことができる医療行為・医療ケアを個別に解説します。
介護職員が行うことができる医療ケア
介護職員が行うことができる主な医療ケアは以下のとおりです。
- 体温測定
- 血圧測定(自動血圧計のみ可)
- 軽傷の治療(ガーゼの交換、絆創膏を貼るなど)
- 軟膏を塗る(ただし処置は不可)
- 湿布を貼る(麻薬は不可)
- 点眼薬の点眼
- 内包薬の内服介助(一包化された内服薬以外は不可)
- 座薬の挿入
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去は不可)
- 口腔ケア
- 爪切り(異常がある場合は不可)
- 鼻腔粘膜への薬剤噴射の介助
- ストマ装具の排泄物を捨てる
- 自己導尿の介助
ご覧のように、介護職員は「家族を自宅で処置する程度の医療ケア」しか認められていません。さらに一歩踏み込んだケアを行うには、医療資格が必要になります。
ただし「認定特定行為業務従事者」と認定されたスタッフは、次の2つのケアも行えます。
- 喀痰吸引(かくたんきゅういん)
- 経管栄養(けいかんえいよう)
(1)の喀痰吸引は、口腔内や鼻腔内にたまった痰などを吸引することです。筋力が衰えて自力で痰を出すのが難しい人に対して行います。適度に痰を吸引することで高齢者に起こりやすい誤嚥性肺炎や窒息を予防します。
(2)の経管栄養は、チューブやカテーテルなどで必要な栄養を胃や腸に直接注入することです。口から食べ物を摂取できなくなったり、誤嚥性肺炎のリスクがある人に用いられます。
看護職員が行うことができる医療行為・医療ケア
次に看護職員が行うことができる医療行為・医療ケアを見ていきましょう。
医師の指示を受けた看護職員が行うことができる主な医療ケアは以下のとおりです。
- インシュリン注射
- 褥瘡(床ずれ)の処置
- 喀痰吸引
- 中心静脈栄養
- 経管栄養
- 在宅酸素
- 人工呼吸器の管理
看護職員は医療資格を持つ分、介護職員よりも行うことができる医療ケアの範囲は広くなります。
注射や人工呼吸器は扱えますが、施設によっては夜勤の看護職員がいないこともあります。
夜間のケアが必要な人は、看護職員が夜間対応可能な施設を選びましょう。
また、看護職員がいても施設の設備によってはケアが受けられないこともあります。
老人ホームを選ぶときにはパンフレットや問い合わせなどで、対応可能な医療行為の範囲をあらかじめ確認しましょう。
医師が行うことができる医療行為
老人ホームで医師が行うことができる主な医療行為は以下のとおりです。
- 診察
- 経過観察
- 注射
- 点滴
- 人工透析(施設による)
- 処方箋の交付
- 応急処置
介護施設では、医師であっても極めて限定的な医療行為しかできません。医療施設に相当する医療行為・ケアは受けられないので気をつけましょう。
医療の充実度は施設の種類によって異なる
老人ホームは施設の種類によって、受けられる医療に差が出ます。
ここでは老人ホームの専門職員配置基準をもとに、公的施設と民間施設の医療の違いについてみていきましょう。
老人ホームの専門職員配置基準
老人ホームなどの介護施設では、施設の種類によって、専門職員の配置の有無が決められています。専門職員とは、医師や看護職員、介護職員などの資格を持つ職員のことです。
専門職員の配置人数は、入所者の数に対して決められます。たとえば3:1であれば<入所者3人に対して専門職員を1人配置する>ことを指します。
医療や介護の必要性のある入居者を受け入れている施設は、専門職員の配置割合が高くなります。以下の表に公的施設の老人ホームと民間の老人ホームの専門職員の配置基準をまとめました。
▼公的施設(例.100:1=入所者100名に対して1名配置)
施設の種類 | 特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 | 介護医療院 (Ⅰ型) |
介護医療院 (Ⅱ型) |
---|---|---|---|---|
医師の配置義務 | 非常勤可 (必要な数) |
100:1以上 (常勤1以上) |
48:1 (3人以上) |
100:1 (1人以上) |
看護職員の配置義務 | 3:1以上 | 3:1 ※看護職員2/7以上 |
6:1 | 3:1 ※看護職員2/7以上 |
介護職員の割合 |
▼民間施設
施設の種類 | 介護付き有料老人ホーム | そのほかの有料老人ホーム |
---|---|---|
医師の配置義務 | なし※任意 | なし※任意 |
看護職員の配置義務 | 看護職員の配置義務 | 必要な数 |
介護職員の割合 | 3:1 ※看護職員とあわせて | 必要な数 |
公的施設で注意したいこと
上記の表にあるように、公的施設の老人ホームはすべて医師の配置が義務付けられています。入居者に対する看護職員の割合も高いことから、民間の老人ホームより医療面で手厚い印象を受ける人も多いでしょう。公的施設は入居費用が抑えられるのが魅力的ですよね。
しかし「医療が手厚いから安心」と公的施設入居を安易に決めてしまうのは少し危険です。
ここでは公的な老人ホームの注意点を3つ解説していきます。
1. 特別養護老人ホームは医師が非常勤の可能性がある
特別養護老人ホームの医師が非常勤の場合、希望の医療行為が受けられないこともあります。医師が週に数回の出勤だと、毎日ケアが必要な人は入居が難しいでしょう。
施設によっては、医師は週に数回診察などを行う場合もあります。
2. 介護老人保健施設には退居期限がある
介護老人保健施設は手厚い医療ケアが受けられますが、基本的には自宅に戻るのが前提です。入所期間は3~6ヵ月で、長期での入所はできません。終の棲家にはできないので覚えておきましょう。
3. 介護医療院は数が少なく、入居が難しい
介護医療院は全国で562施設と数が少なく、需要に対して不足している状態です(令和2年12月31日時点)。今後、増加することが予想されますが、医療の充実度ゆえに人気が高く、希望の施設への入所は難しい可能性があります。
民間施設の医療充実度は施設によって異なる
民間の有料老人ホームには医師の配置義務がないことから、公的施設と比べると医療面に少し不安を感じるかもしれません。しかし有料老人ホームの中には入居者の医療面をサポートするために、独自のサービスとして医師を配置する施設も増加しています。
また介護付有料老人ホームでは、協力医療機関との提携が義務付けられています。たとえ施設内に医師がいなくても、協力医療機関で診察や治療などの医療サービスが受けられるので、不便を感じることはないでしょう。
中には、救急対応や入院、往診などが可能な医療機関と提携しているところもあります。一方で協力医療機関が診察のみというケースもあり、医療充実度に大きな差があるのが現状です。有料老人ホームを選ぶときには、協力医療機関と対応可能な医療範囲を確認しましょう。医療ケアを重視した老人ホーム選びの5つのチェックポイント
最後に、医療ケアを重視した場合の老人ホーム選びでチェックすべきポイントを5つご紹介します。
1. 医師や看護職員の勤務体制
パンフレットやホームページに「医師や看護職員がいる」とあっても、勤務体制によっては希望の医療ケアが受けられないことがあります。
医師や看護職員の人数や勤務体制(常勤・非常勤、夜間の体制)をあらかじめ確認しておきましょう。
2. 医療機関との連携
入居者の健康状態が老人ホームで対応できなくなると、提携の医療機関で治療または入院となります。ただし提携先の医療機関によっては「治療のみで入院はできない」ケースもあります。
また、医療法人が経営する老人ホームだと入院の際に優先的にベッドを確保してもらえるなどのメリットもあります。
「提携先の医療機関ではどこまで治療が受けられるのか、入院が可能か」など事前に聞いておきましょう。3. 医療機関までの距離
提携の医療機関が老人ホームの近くにあるかどうかも重要なポイントです。
医療機関が併設されていると夜間や緊急時の対応が可能なケースが多く、医療充実度が上がります。
4. 送迎サービスの有無
老人ホームの中には、医療機関との送迎サービスを提供する施設もあります。
送迎サービスがあると通院にかかる費用の負担が軽くなります。
ただし、施設によっては送迎サービスが有料な場合もありますので注意が必要です。送迎サービスがない場合には、家族自身が送迎をしたり、介護タクシーを手配したりすることもあります。
5. 看取り対応の有無
「老人ホームで最期を迎えたい(または、迎えてもよい)」と考えている人は、看取り対応のできる老人ホームを選びましょう。
看取りとは「延命治療は行わずに死を迎えるためのケア」です。看取り対応のできない老人ホームの場合、健康状態や病状が悪化すると退居となるのが一般的です。
老人ホームの医療サービスは施設ごとで異なるのでしっかり確認を
老人ホームの医療体制は施設によって大きく異なります。
入居後に後悔しないためにも、事前に「提供可能な医療サービス」や「緊急時の対応」などをしっかり確認しておきましょう。