高齢者によるカスタマーハラスメントとは? 介護サービス利用時に気をつけたいこと
介護サービスの現場では、職員が利用者や家族から厳しい言葉を浴びたり、高圧的な態度を取られたりすることがあります。近年は、こうした言動が職員の負担や離職につながるケースもあり、社会的にも大きな課題として取り上げられています。
そのため、東京都福祉保健局なども注意喚起や相談窓口の案内を行い、「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」への理解を広げようとしています。この記事では、カスハラの定義や特徴を整理し、特に介護スタッフへの対応で、無自覚のうちにカスハラになっていないかを見直すヒントを紹介します。
カスタマーハラスメントとは?
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスタマーハラスメントとは「顧客や取引先などからの著しい迷惑行為により、労働者が精神的又は身体的苦痛を受け、就業環境が害される行為」を指します。
たとえば、土下座の強要や従業員個人への攻撃、SNSでの誹謗中傷(氏名の公開など)、大声での恫喝や暴言の繰り返し、頻繁な来店によるクレーム行為などが挙げられます。
カスハラはもともと飲食店やコールセンターなどで問題視されていましたが、近年では医療・介護分野でも深刻化しています。背景には、「お金を払っているのだから完璧に対応して当然」といった意識や、SNSで不満を発信しやすい社会環境があります。こうした風潮を受け、企業や自治体では「カスハラ防止ポスター」の掲示や相談体制の整備など、対策が進められています。
その一言がカスハラと受け取られることも。高齢者と家族が知っておきたい境界線
クレームや苦情を伝えること自体は、何の問題もありません。ただし、「社会通念上、不相当な手段」で行われる場合は、ハラスメントとみなされます。ここでいう「不相当な手段」には、次のような行為が該当します。
- 要望を伝える際に、威圧的な言動や侮辱的な発言を繰り返す
- 営業時間外や深夜に何度も電話をかけるなど、過剰な連絡を行う
- 従業員個人を名指しで攻撃したり、SNS等で誹謗中傷を拡散する
- 正当な理由なく長時間拘束し、謝罪や土下座を強要する
これらはいずれも、相手の尊厳を損ない、通常の対応を妨げるものです。
一方で、こうした行動の背景には、「自分の声が届かない」「大切な家族のために何とかしたい」といった利用者や家族の思いがある場合も少なくありません。介護のように感情が動きやすい場面では、介護サービススタッフの説明に納得できず、不安や焦りから強い言葉を使ってしまうこともあります。不満や不安を伝える際は、「何をどう改善してほしいか」など要望や意見を整理し、落ち着いて共有することが大切です。
たとえば利用者の転倒や体調変化をめぐって「介護施設の責任だ」と一方的に主張することは、建設的な対話を妨げます。大切なのは、利用者や家族と介護スタッフが事実を確認しながら、「どうすれば再発を防げるか」を一緒に考える姿勢です。相手を責めるのではなく、お互いが協力して解決を目指す方が建設的なコミュニケーションだと言えます。
加齢による変化がもたらす誤解やトラブルとは
高齢者がサービスを利用する際には、加齢による変化から「どう伝えてよいか分からない」「聞いたつもりが誤解していた」という場面もあります。わずかなすれ違いが原因でトラブルになりかねないため、理解しておきたいポイントです。
たとえば次のようなケースです。
- 聴力や記憶の低下による聞き間違い・思い違い
- デジタル対応の難しさ(タブレット操作、キャッシュレス決済など)
- 専門用語やカタカナ語が理解しづらい
- 同じ質問や要望を何度も繰り返してしまう
高齢者への「伝わりにくさ」に寄り添う
聴き間違いや質問の繰り返し、デジタル機器への戸惑いなどは、高齢者本人のわがままや無礼ではなく、年齢に伴う自然な変化です。しかし、それらによって職員の説明が十分に伝わらないと、「説明してもらっていない」「対応が悪い」と高齢者が誤解してしまうこともあります。
家族がそばにいる場合は、聞き取りをサポートしたり、要点を整理して伝え直したりすることが大切です。また、介護施設では「食事」「入浴」「金銭管理」など、日常の中に誤解が生じやすい場面が多くあります。家族が冷静な橋渡し役となり、双方の立場を理解して会話を続けることが、トラブル防止につながります。
カスタマーハラスメントを防ぐ簡単チェック
強い感情や誤解から「気づかないうちにカスハラになっていた」というケースを防ぐため、まずは自分の言動を振り返り、相手と冷静に向き合えているか、以下の項目でセルフチェックしてみましょう。
- 感情的にならず、落ち着いて話せているか
- 相手の説明を最後まで聞いているか
- 要求や態度が過度になっていないか
問題が起きたとき、人はつい強い口調になりがちです。しかし、相手の立場や状況を想像し、冷静に伝えることで、解決への道が開けます。また、感情を落ち着けてから話す、要望をメモにまとめて伝えるなどの工夫も有効です。
介護施設や事業所では、対応マニュアルに基づいて慎重に判断しています。 「どうしてこのような対応なのか」を確認し、納得できない点は丁寧に質問するようにしましょう。一方的に責めるより、事実を共有して一緒に考える姿勢を持ちましょう。
カスタマーハラスメントを未然に防ぐために、家族ができるサポート
高齢の家族がサービスを利用する際、家族の関わり方が円滑なコミュニケーションの鍵です。伝え方や記録の仕方を工夫することで、誤解や行き違いを防ぎ、利用者・家族・職員が安心して支え合える関係を築くことができます。トラブルを防ぐために家族ができる支援として、次の3つのポイントを意識してみましょう。
1. 要望を整理して伝える
思いついた順に話すと、伝わりにくくなります。要点をメモにまとめ、事前に確認しておくとスムーズです。
2. 本人の意見を尊重する
介護サービスは本人の生活の一部です。家族が代わりに決めるのではなく、「どう思う?」と確認しながら進めましょう。
3. 記録を残しておく
日付や担当者、やり取りの内容を簡単に記録しておくと、後からの確認が容易になります。
誤解を防ぎ、安心して話し合うための材料にもなります。
家族が感情的にならず、橋渡し役としてスタッフと協力することが何よりも大切です。「施設にお願いしている側」と「支援している側」という関係を超え、同じ目標を持つパートナーとして向き合いましょう。
困ったときの相談先
家族としてトラブルや不安を感じたとき、一人で抱え込む必要はありません。また、介護を受けているご本人が困っている場合も、家族が代わりに相談することができます。公的な相談窓口を活用すれば、客観的な立場からアドバイスを受け、冷静に対応策を考えることができます。
相談先として
- 利用している介護施設や事業所の相談窓口
- 担当ケアマネジャー
現場をよく知るスタッフが、話を整理しながら解決策を一緒に考えてくれます。
第三者の意見を聞きたいときは、次のような公的機関にも相談できます。
| 消費生活センター (電話:188番) |
契約・料金・サービスなど、生活全般のトラブルに対応しています。 全国共通の番号で、最寄りの消費生活センターにつながります。 |
|---|---|
| 警察相談専用ダイヤル (電話:9110番) |
悪質な嫌がらせや脅迫などの相談に対応します。 ※緊急性がある場合は110番を利用しましょう。 |
相談の際には、トラブルの経緯、相手の所属・名前、発生日時などを整理しておくとスムーズです。また、感情的にならず、事実を冷静に伝えることが大切です。相談員や警察は、あなたと相手の双方を守る立場から、適切な助言や対応を行ってくれます。
介護サービスの現場でのカスハラを防ぐには、家族の冷静なコミュニケーションが必須となります。利用者・家族・職員ともに感情的になる場合もあるでしょうが、時には第三者の力も借りつつ、利用者の気持ちに寄り添った関係を築いていきましょう。