高齢者の夏を安全に!エアコン設定温度と体調不良を防ぐ実践方法
高齢者は体温調節機能が低下しやすいため、室温管理が健康維持に重要な要素となります。特に夏は、室内でのエアコン使用は命を守る大切な手段ですが、「冷えすぎるのでは」「電気代がかかる」といった心配から使用をためらう方も多いのではないでしょうか。実際「エアコンが効きすぎて寒い」「手足が冷えてつらい」という声も聞かれます。しかし、冷えとは対照的な「熱中症」も温度管理の留意点。適正な温度管理こそが、健康で心地よい夏を過ごすための第一歩。今回は、高齢者が安心して夏を乗り切るためのエアコン活用術をお伝えします。
高齢者にとって適切なエアコン設定温度と室温管理
高齢者にとって、夏の室温管理は健康を左右する重要な問題です。まず覚えておいていただきたいのは、室温は28度以下に保つことが基本だということです。
環境省の熱中症予防情報サイトによると、高齢者は体温調節機能が低下しているため、若い世代よりも暑さを感じにくく、熱中症のリスクが高まります。そのため、室温管理には特に注意が必要なのです。
実際のエアコン設定のポイント
- 室温28度以下をめざすため、エアコンは26度前後に設定
- 湿度は50〜60%程度に調整
- 温度計で室温を確認する習慣をつける
- つけっぱなしを基本とし、こまめなオンオフは避ける
ALSOK介護の施設では、体感温度28度以下を保つため、実際のエアコン設定は26度程度にしています。これは、エアコンの設定温度と実際の室温には差があるためです。特に広い部屋や日当たりの良い場所では、設定温度よりも室温が高くなりがちです。
湿度管理も見落としがちですが、非常に重要です。湿度が高いと体感温度が上がり、汗をかいても蒸発しにくくなるため、熱中症のリスクが高まります。除湿機能を活用し、適切な湿度を保ちましょう。
多くの方が気にされる電気代についても、実は「つけっぱなし」の方が経済的なことが多いです。エアコンは起動時にいちばん電力を消費するため、こまめにオンオフを繰り返すよりも、連続運転の方が電気代を抑えられるのです。これらの基本を押さえた上で、次は個人の体感に合わせた細かな調整について見ていきましょう。
エアコン使用時の冷え対策と個別の工夫
「エアコンをつけると寒くて体が冷えてしまう」「電車やお店が冷えすぎて困る」といったお悩みも少なくありません。確かに、エアコンの効いた環境では体が冷えすぎることがありますね。
特に公共施設や交通機関、病院の待合室、スーパーマーケットなどでは、ご自身でエアコンの設定を変えることができません。このような場所では、施設全体の快適性を考慮して温度設定がされているため、高齢者の方には「寒い」「冷えてつらい」と感じられることも多いでしょう。
しかし、暑さによる体調不良や熱中症のリスクを考えると、これらの涼しい環境は私たちの健康を守ってくれる大切な場所でもあります。そこで重要になるのが、個人レベルでできる「エアコン冷え対策」の工夫です。上手に体温調節をしながら、安全で快適に過ごす方法をご紹介します。
服装での調整方法
- 薄手のカーディガンやベストを用意
- 首元に巻けるようにスカーフや薄いタオルなどを準備
- レッグウォーマーやルームシューズで足元をカバー
- ひざ掛けやブランケットを常備
特に高齢者は血行が悪くなりがちで、手足の冷えを感じやすくなります。重ね着で調整できるような服装を心がけ、いつでも体温調節ができるよう準備しておくことが重要です。
外出時には、ひざかけ(大判のストールでも)や薄手のカーディガンを持参すると安心です。
冷えすぎを防ぐエアコンの使用方法
では、ご自宅の場合はどうでしょうか。エアコンの温度調節がうまくいかず、適温に設定したものの「なんだか寒く感じる」ということもあるかもしれません。そのような時は、エアコンの使い方を少し工夫することで、冷えすぎを防ぎながら快適に過ごすことができます。
- エアコンの風向きを調節
- サーキュレーターや扇風機との併用
エアコンの風向きも大切なポイントです。直接体に風が当たると体感温度が下がりすぎるため、風向きは上向きや横向きに設定することをおすすめします。
サーキュレーターや扇風機との併用も効果的です。エアコンだけでは部屋の上下で温度差が生じがちですが、空気を循環させることで室温を均一に保てます。特に足元が冷えやすい方には、この方法がおすすめです。
また、ご自宅でも前述したような服装の調節をこまめに行い、「快適に過ごす」工夫をしたいですね。
室内でも熱中症リスク 冷えすぎを気にしすぎず、適温キープを
『エアコンをつけているから大丈夫』と思われがちですが、実は室内でも熱中症は起こります。冷えすぎを気にするあまり、室温が高くなりすぎてしまうケースも少なくありません
近年の日本の暑さは、昔と比べ物にならないほど厳しくなっています。気象庁のデータを見ても、35度を超える猛暑日の日数は年々増加しており、私たちが子どもの頃に経験した夏とは全く異なる環境になっています。そのため、昔ながらの暑さ対策だけでは限界があり、エアコンを適切に使うことが命を守る重要な手段となっています。
厚生労働省の調査によると、熱中症による救急搬送の約4割が室内で発生しています。特に高齢者は暑さを感じにくく、知らず知らずのうちに体調を崩してしまうことがあります。そのため、体感だけに頼らず、温度計で客観的に室温を管理することが大切です。
水分補給の基本と就寝時の対策
高齢者の1日に必要な水分量は1,000〜1,500mlとされています。これは、コップ1杯(約200ml)を5〜7回に分けて飲む計算になります。
- 起床時にコップ1杯の水分補給
- 食事の前後にも意識的に水分を摂る
- 入浴前後は特に重要
- 就寝前にも適量の水分補給
のどが渇いてから飲むのではなく、渇く前に定期的に水分を摂ることが重要です。
就寝時の熱中症対策も見落としがちですが、非常に重要です。夜間でも室温が28度を超えると熱中症のリスクが高まります。「夜は涼しくなる」という感覚は、もはや過去のものと考え、夜間もエアコンを適切に使用することが大切です。寝る前にコップ半分程度の水分を摂り、枕元に水分を用意しておくことも効果的です。
夏を乗り切る!高齢者のための「基本的な健康管理のポイント」
- バランスの良い食事(塩分と糖分の適度な摂取)
- 規則正しい生活リズムの維持
- 十分な睡眠時間の確保(暑すぎると睡眠の質が低下)
- こまめな水分補給(のどが渇く前に飲む習慣を)
これらは健康的な生活の基本であり、健やかに夏を過ごすために欠かせない大切なことです。バランスの良い食事で体の基礎を整え、規則正しい生活リズムを保つことで、体調の変化にも気づきやすくなります。日頃からしっかりとした健康管理を行うことが、厳しい暑さや冷房による冷えを乗り越える大きな支えとなるのです。
室内でできる軽い運動も、暑さに対する体の適応力を高めます。椅子に座ったままできる足首の回転運動や、ゆっくりとした深呼吸などから始めて、少しずつ体を動かす時間を増やしていきましょう。ただし、運動前後の水分補給は必ず行い、体調がすぐれない日は無理をしないことが大切です。
適切な室温管理と基本的な健康管理を組み合わせることで、安全で快適な夏を過ごすことができます。
安心できる夏のために 周囲と連携した健康管理を
高齢者の夏の健康管理は、ご本人だけでなく、ご家族や周囲の方々との連携が欠かせません。適切なエアコンの使用方法を理解し、実践することが基本となりますが、それと同時に、日頃からの健康状態の把握と専門家との相談も重要です。
専門家との連携のすすめ
- かかりつけ医による定期的な健康チェック
- ケアマネジャーとの生活環境の相談
- 介護サービス事業者からの見守りと助言
- 薬剤師による服薬と体調管理の指導
個人の健康状態や生活環境は一人ひとり異なります。持病のある方、薬を服用されている方は、特に専門家との相談が重要です。医師やケアマネジャー、薬剤師などの専門家と連携し、その方に最適な室温管理や体調管理の方法を見つけていくことが、安全で快適な夏を過ごすためのいちばんの近道です。
暑い夏を健康に乗り切るために、適切なエアコンの使用と周囲のサポートを活用し、専門家との連携を大切にしながら、安心できる毎日をお過ごしください。
参考:
エアコン(冷房・暖房)の適切な設定温度は?(ALSOK)
https://www.alsok.co.jp/person/recommend/2270/
日本気象協会熱中症ゼロへ
https://www.netsuzero.jp/learning/le10
環境省「熱中症予防情報サイト」
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-1.pdf
エアコン使わないのはどうして?(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20200821_01.html
日本生気象学会誌「高齢者の夏期室内温熱環境実態と熱中症対策」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikisho/55/1/55_33/_pdf
高齢者に必要な1日の水分摂取量とは?/ネスレ
https://healthscienceshop.nestle.jp/blogs/isocal/knowledge-heatstroke-004-index?srsltid=AfmBOorjFc-CG54V9pDWhWzckw8_BoKNzuVnOCpuG4vO8DisxG2zGLKx