遠距離介護にどう備える?離れて暮らす子どもが頼れる支援制度や見守りサービス
離れて暮らす親に介護が必要になったとき、何から手を付けてよいかわからず戸惑う人も少なくありません。特に、働きながら介護を担う場合は、制度やサービスを知っているかが負担軽減のポイントとなります。
この記事では、遠距離介護に直面した際に知っておきたい基礎知識や、活用できる支援制度、さらに最新の見守りサービスについて詳しく紹介します。
遠距離介護を生む要因
75歳以上の高齢者は、65~74歳を上回る
令和7年版「高齢社会白書」によれば、2024年時点の高齢化率は29.3%に達し、65歳以上の人口は3,624万人に上ります。そのうち75歳以上は2,078万人と、65〜74歳(1,547万人)を上回っています。
今後も高齢化の進行は続く見込みで、2070年には国民の約4人に1人が75歳以上になるとの推計が出ています。こうした人口構造の変化により、要介護認定を受ける高齢者の数も必然的に増加します。
高齢者の暮らしの変化
遠距離介護が生まれる背景には、高齢者の生活様式の変化もあります。一人暮らしの高齢者は年々増えており、1980年には男性4.3%、女性11.2%だったのが、2020年には男性15.0%、女性22.1%にまで上昇しています。
また高齢化率には地域差があり、65歳以上の割合は秋田県や山形県、高知県や徳島県などの地方では高く、東京都などの都市部では比較的低い傾向があります。親が地方に、子が都市部に住んでいるケースも多く、物理的な距離が遠距離介護の一因となっています。
遠距離介護とは?移動の時間や距離が負担に
移動や費用の負担が重くのしかかる
遠距離介護には明確な定義はありませんが、一般的には「親子が別居しており、片道2時間程度の移動を伴う介護」を指すことが多いとされています。ただし、実際には「距離」そのものよりも、「移動のしづらさ」や「時間的・経済的負担」を介護者がどのように感じるかが、より重要です。
たとえば、移動時間が1時間程度であっても、乗り換えが多かったり、時間帯によって待ち時間が長かったりすれば、負担は大きくなります。利用する交通機関によっては運賃が高く、繰り返しの移動が家計を圧迫することもあります。このように、遠距離介護は距離だけでは語れない複雑な側面があるのです。
子ども世代の負担が大きくなる
一人で抱え込まないことが大事。相談できる窓口を知り、専門家を頼ろう
介護は、一般的には長期にわたります。特に、介護者と被介護者が離れて暮らす遠距離介護では、介護を一人で抱え込まないことが何よりも大切です。
相談できる窓口や支援者とつながることで、心身への負担を軽減し、無理のないかたちで介護を継続することが可能になります。
相談先として、以下のような窓口が活用できます。
| 地域包括支援センター | 全国に約5,000箇所あり、介護・医療・保健・福祉をまたいだ幅広い相談ができる場所です。遠方に住む子どもでも、手続きの代行を相談できる場合があります。委任状が必要になることもありますが、地域の窓口として心強い存在です。 |
|---|---|
| ケアマネジャー(介護支援専門員) | 介護サービスの調整を担うプロフェッショナル。令和7年版高齢社会白書では、情報源として「ケアマネジャーを活用している」人は74.8%に上るとされています。 |
| 社会福祉協議会・自治体の介護相談窓口 | 地域の特性や制度について、具体的なアドバイスをもらえることがあります。 |
| 民間団体(日本顧問介護士協会など) | 兄弟姉妹での介護や費用の負担で揉めるといった複雑なケースや感情面でのサポートが必要な場合に、寄り添った支援を得られる可能性があります。 |
介護者本人の負担と支援の必要性
介護を担う側の生活には、さまざまな影響が及びます。介護付き添いサービス「わたしの看護師さん」などを展開するN.K.Cナーシングコアコーポレーションが実施した調査によると、「職場や家庭への影響を感じている」と回答した人は81.7%に上っています。具体的には心身の疲労、収入の減少、昇進機会の減少などが負担に感じる項目として挙がりました。
介護休業制度を利用すれば、最大93日間の休業が可能ですが、実際には職場との調整が難しく、制度を十分に活用できないケースも少なくありません。
また、遠距離介護では移動距離が長くなりがちで、交通費や宿泊費などの経済的負担も無視できません。一部の航空会社では「介護帰省割引」などの支援策が用意されているため、こうした制度を上手に活用することも、負担軽減につながるはずです。
ICTや見守りサービスを活用しよう
技術の進歩により、遠距離介護をサポートするさまざまなツールが登場しています。離れて暮らす家族の見守りを、無理なく、そして安心して行える手段として、ICT機器やサービスを活用しましょう。
カメラやセンサー
室内に設置する見守りカメラを使えば、離れていても親の様子をリアルタイムで確認できます。異常を検知した際にはスマートフォンなどに通知が届く仕組みもあり、高齢者のプライバシーに配慮しながら、安否確認を行うことが可能です。
見守り家電
冷蔵庫や電気ポットといった家電の使用状況をセンサーで検知し、一定時間動きがなければ通知する製品もあります。これらは家電メーカーや通信会社から提供されており、設置も比較的簡単で、日常の行動をさりげなく見守ることができます。
見守りサービス
ALSOKでも提供している見守りサービスでは、定期的な電話や訪問、さらには緊急時の駆けつけ対応までがパッケージ化されています。遠距離で親を見守る家族にとって、心強いサポートとなるサービスです。
遠距離介護に備えて事前にできること
介護は「何かあってから」では間に合わないことも少なくありません。いざというときに慌てず対応できるよう、事前に準備を進めておくことが大切です。ここでは、遠距離介護に備えておきたい具体的なポイントを紹介します。
事前の話し合いと家族の連携
介護が必要になった際の方針や、親がどのような介護を望んでいるかを家族で確認しましょう。また、かかりつけ医の情報や服薬の内容など、健康に関する基本的な情報も事前に把握しておくと安心です。
あわせて、親の資産管理についての話し合いも必要です。判断能力が低下した場合に備えて、成年後見制度の活用も視野に入れておくとよいでしょう。兄弟姉妹がいる場合は、それぞれの役割をあらかじめ話し合い、できること・できないことを共有しておくことが円滑な連携につながります。
夫婦間でも話し合っておく
子ども世代が結婚して配偶者がいる場合、遠距離介護の方針を話し合っておくことが重要です。遠距離介護をする場合、移動頻度や距離、介護のために充てる時間などによっては、家庭や仕事に影響が及ぶ可能性があるためです。
介護に必要な費用を想定する
遠距離介護では、実家への帰省にかかる旅費や滞在費のほか、介護サービスの利用料など、さまざまな費用が発生します。さらに、突発的な事態に備えた予備費も考慮する必要があります。それぞれの費用が保険適用になるかどうかや、各サービスの料金体系をあらかじめ調べておくことで、精神的にも経済的にも余裕をもって対応できるようになります。
遠距離介護には、心身の疲労に加え、時間やお金の面でも多くの負荷がかかります。だからこそ、制度やサービスを上手に活用し、家族や配偶者と連携して備えておくことが大切です。いざというときに慌てないよう、早めの準備を心がけましょう。
参考:
令和7年版「高齢者白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/zenbun/07pdf_index.html
「介護経験者の実態」N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000133443.html