誤嚥性肺炎を予防するために高齢者と家族ができること
高齢になると、食事中にむせたり、飲み込みにくさを感じたりすることがあります。このような症状は、誤嚥(ごえん)性肺炎のリスクを高める重要なサインかもしれません。
誤嚥性肺炎は、高齢者にとって命に関わる深刻な病気ですが、日常生活での工夫や適切なケアによって予防できます。家族や介護する方が正しい知識を持ち、日頃から注意深く見守ることで、大切な人の健康を支えていきましょう。
そもそも誤嚥性肺炎とは?
口から入った食べ物や飲み物、唾液が食道ではなく、誤って気道(空気の通り道)に入ることを誤嚥といいます。誤嚥性肺炎は、誤嚥したときに口の中や喉にいた細菌やウイルスまで一緒に飲み込むことで、肺炎が起きることをいいます
引用:誤嚥性肺炎にならないために/地方独立行政法人東京都立病院機構
食べ物を食べたり、飲み物を飲んだら、普通は食道を通って胃に向かいます。ところが、嚥下(飲み込む)機能が低下すると、間違って肺に向かう器官に入ってしまうことがあります。これを「誤嚥(ごえん)」といいます。その時に、細菌を含んだ物質まで一緒に飲み込んで、肺に入ってしまうと炎症を起こし、肺炎を発症してしまいます。
なぜ高齢者が「誤嚥性肺炎」にかかりやすいのか
高齢者や退院直後の方の誤嚥性肺炎にかかりやすい主な理由は以下のとおりです。
- 加齢によるのどの筋力低下
- 嚥下反射の鈍化
- 脳卒中などの病気による神経機能への影響
- 免疫力の低下
基本的に、加齢だけでなく入院時の寝たきりや座りがちな生活から身体のさまざまな機能が低下している可能性があり、複数の要因が重なると、誤嚥のリスクもより高まる傾向があります。
見逃しやすい初期症状
誤嚥性肺炎の初期症状は、一般的な肺炎とは異なり、気づきにくいものが多いため注意が必要です。
- 37度台の微熱が続く
- 食欲の低下
- なんとなく元気がない
- 軽い咳が続く
- 痰が増える
- 声がかすれる
微熱が続く、軽い咳が続く、となると「風邪かな」と思ってしまいがちです。しかし、もし上記のような症状が継続して現れる場合には、注意深く観察し、必要に応じて医師に相談しましょう。
誤嚥性肺炎は素人には診断がしづらく、わかりづらいものです。症状を見逃さないためにも、日頃からの対策と予防が重要になってきます。
家庭でできる基本的な「誤嚥性肺炎」予防法
誤嚥性肺炎の予防は、毎日の食事や生活習慣の中で実践できる方法がたくさんあります。家族みんなで取り組める基本的な予防法をご紹介します。
食事中の姿勢と環境を整える
まず、食事をする際の基本的な姿勢から見直してみましょう。
- 背筋を伸ばして椅子に深く座る
- 足をしっかりと床につける
- ベッドでの食事時は上体を45度以上起こす
- 顎を軽く引いた姿勢を保つ
- テレビを消して静かな環境で食事をする
- 急がせずにゆっくりと時間をかける
正しい姿勢での食事は、食べ物が食道に向かいやすくなり、誤嚥のリスクを大幅に減らすことができます。
食事内容の工夫
毎日の食事に少しの工夫を加えれば、安全でおいしい食事を楽しめます。
食べ物の工夫
- やわらかく調理する
- 細かく刻んで飲み込みやすくする
- パンやクッキーなど口の中でばらばらになるものは避ける
- ゼリーやプリンなどまとまりやすい食品を選ぶ
- 温度が適切かどうか確認する
飲み物の工夫
- 適度なとろみをつける
- 一度に大量に飲まず、少しずつ摂取する
- 炭酸飲料は避ける
たとえば、ALSOK介護の『グループホームみんなの家・北綾瀬』では、このような食事が提供されています。
高齢になりますと、飲み込みが悪い利用者様もいます。水分などには「とろみ剤」、食事は刻みにて召し上がれるように工夫しています。「刻み食」は言葉の通り、食材を細かく刻んで提供しています。刻みも段階があります。①一口サイズ②荒刻み③刻み④極刻みと経過します。
介護される方の状態に応じて、食事を食べやすく、飲み込みやすい形状にすることで、誤嚥を予防できます。
口腔ケアの重要性
口の中を清潔に保つことは、細菌の数を減らし、万が一誤嚥が起きた場合でも肺炎のリスクを軽減する重要な予防法です。
毎日の口腔ケア
- 食事の前後には必ずうがいを行う
- 歯磨きや入れ歯の清掃を丁寧に行う
- 舌のお掃除も忘れずに行う
- こまめに水分摂取して口の中を潤す
その他
- 定期的に歯科を受診する
口腔ケアは、誰かが歯磨きを手伝い、もうひとりが入れ歯の清掃を担当する、都合の合う人が歯医者さんの付き添いを行う、など、家族みんなで協力して行うと負担が軽減されます。
これらの基本的な予防法に加えて、より積極的な取り組みも検討してみましょう。
リハビリ・マッサージなどの活用
嚥下機能の維持・回復には、専門的なリハビリテーションや日常的な体操が非常に効果的です。嚥下機能は使わないとどんどん衰えてしまうため、意識的に鍛えることが重要です。
嚥下機能を鍛える体操とリハビリ
専門的な訓練
- 言語聴覚士による個別リハビリプログラム
- 嚥下造影検査に基づいた訓練
- 医師との連携による安全な訓練
家庭でできる嚥下体操
- 首回しや肩の上げ下げなどの体操
- 深呼吸をする
- 「パ・タ・カ・ラ」の発音練習
- 舌を前後左右に動かす運動
- 唾液を意識的に飲み込む練習
- 頬を膨らませる・すぼめる運動
ご家庭でも簡単な運動で、嚥下に関わる筋肉を効果的に鍛えられます。一度、専門家に相談し、ご本人の状態にあった嚥下体操や訓練の方法を教えてもらうと安心です。
テレビCMの間やおやつを食べる前などに、ご家族も一緒に深呼吸をしたり、頬を膨らませてすぼめる運動をしたりするといいですね。
訪問マッサージサービスの活用
体全体の血行を良くすることも、嚥下機能の維持につながります。
訪問マッサージの効果とメリット
- 血液循環の改善
- 筋肉の緊張緩和
- 嚥下機能の改善支援
- 家族の介護負担軽減
- 自宅での専門的ケア
専門的なケアを自宅で受けられる安心感もあり、継続的な健康管理にも役立ちます。ご本人も緊張が和らぎ、リラックスした時間を過ごせるでしょう。その間は、介護する方の休息時間にもなるので、家族みんなにとってやさしいサービスです。
株式会社ケアプラスでは、国家資格を持った施術者による訪問マッサージサービスを提供しています。外部サービスを上手に活用しましょう。
「誤嚥性肺炎」予防で家族や介護者が注意すべきポイント
誤嚥性肺炎の予防において、家族や介護者の観察力と気づきは非常に重要な役割を果たします。日常生活の中で見られる小さな変化を見逃さないことが、重篤な状態を防ぐカギとなります。
見逃してはいけない危険サイン
特に注意すべきサインを日常生活の中でチェックしましょう。
食事中・食後のサイン
- 水や薬を飲むときにむせる
- 食事中に咳き込むことが増えた
- 食後にしばらく咳が続く
- 飲み込むときに時間がかかる
- 食事中に疲れやすくなった
声や呼吸の変化
- 声がかすれる
- がらがら声になる
- 痰が絡んだような声になる
- 呼吸が浅くなった
これらのサインが見られたら、医師に相談しましょう。
日常生活で気をつけること
避けるべきこと
- 寝る前や横になった状態での飲食
- 急いで食事をすること
- ひとりでの食事(できるだけ)
- 会話しながらの食事
推奨される生活習慣
- 就寝前2時間は飲食を控える
- 食後はしばらく座った姿勢を保つ
- 食事は家族と一緒に、見守りながら
食事時間は世帯によって時間もバラバラで、なかなかみんな一緒にとはいきませんね。食事を一緒にできなくても、家事をしながら見守る、時折そばにいって様子を見る、手があいた人が隣に座ってお世話をするなど、工夫しましょう。
医療・介護専門職との連携
予防を効果的に行うためには、専門職との連携が欠かせません。
相談すべき専門職
- かかりつけ医
- ケアマネジャー
- 言語聴覚士
- 歯科医師
- 薬剤師
定期的に確認すること
- 嚥下機能の状態
- 薬の形状や飲むタイミング
- 必要に応じた専門検査の実施
- 栄養状態のチェック
些細なことであっても、気になる点があれば、かかりつけ医やケアマネジャーなどに相談してください。誤嚥性肺炎の予防には、専門家の力も必要です。
健やかな毎日のために家族ができること
誤嚥性肺炎は、確かに高齢者にとって深刻な病気ですが、日常生活でのちょっとした工夫と継続的なケアによって、予防できます。
何より大切なのは、家族や周囲の人々が気づき、支え合うことです。ひとりで抱え込まず、家族みんなで協力して予防に取り組めば、より効果的で負担も最小限にできます。小さな変化に気づいたときは、遠慮せずに医療従事者に相談し、専門的なアドバイスを受けましょう。
早めの対策と継続的なケアが、健康で安心できる毎日につながります。私たち一人ひとりが知識を持ち、こころを込めてケアすることで、大切な人の笑顔あふれる時間を守っていきたいですね。
参考サイト:
健康日本21アクション支援システム「健康づくりサポートネット」/厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/home/
誤嚥性肺炎/一般社団法人日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-12.html
「ごえん『誤飲性肺炎』をご存知でしょうか」/日本歯科衛生士会
https://www.jdha.or.jp/pdf/health/hatookuchi_20230601_2.pdf