デイサービスセンター 遊・府中
【ユウの物語】介護の原点を思い出した夜
介護の原点を思い出した夜
YOYO、みなさん。こんにちは。
デイサービスセンター遊・府中&みんなの家・稲城長沼の王です。
今月、近隣の看多機の管理者の方と食事に行く機会がありました。
和やかな空気の中で交わした何気ない会話。その中で、こう尋ねられました。
「王さんは、どうして介護業界に入ったんですか?」
その場では詳しく話すことはできませんでした。
けれど家に帰り、ひとりになった瞬間、心の奥にしまっていた記憶が静かに揺れ動き、気づけば涙が溢れていました。
私が介護の道を選んだきっかけは、祖母の死でした。
それは大学院を卒業する少し前のこと。
当時、日本の大学院に通いながら、学校の先生の紹介でデイサービスのアルバイトをしていました。
ある日、母から突然の電話が入りました。
「おばあちゃんが脳梗塞と心不全で入院した。余命は数日かもしれない」
迷うことなく、私は航空券を取り、すぐに帰国しました。
病院の病室に入ると、窓側のベッドに小柄な体で背中の曲がった祖母が横たわっていました。
経鼻栄養、尿カテーテル、そして褥瘡……。
その姿を見た瞬間、涙は止まらず、ぽたぽたと床に落ちていきました。
当時の中国では、介護職という存在はほとんどなく、家族が泊まり込みで世話をするか、家政婦を雇うしかありませんでした。
介護や認知症の知識に乏しい母にとって、それはあまりにも過酷な日々だった。
私は三日間、病院に泊まり、祖母の排泄介助や経鼻栄養の世話をしました。
そして三日目、日本に戻らなければならない朝。
何度声をかけても反応のなかった祖母が、静かに目を開いてくれました。
私を見て、わずかに頷いてくれたのです。
それが、最後でした。
私が病院を出た直後、祖母は息を引き取ったと、後日両親から知らされました。
まるで私を見送るために、最後の力を振り絞ってくれたかのようでした。
この仕事を「天職」と思えた理由
数週間後、両親とのビデオ電話でこう言われました。
「介護はとても素敵な仕事です。これからも頑張って続けてください」
正直、当時の私は「介護」という仕事に少なからず抵抗がありました。
学歴や将来への迷いの中で揺れていた私に、その言葉は静かに、でも確かに届きました。
「これはもしかしたら、私の天職なのかもしれない」
そう思った瞬間でもありました。
あれから八年。
たくさんの利用者様を見送り、家族の悲しみ、痛み、悔しさと向き合ってきました。
慣れれば泣かなくなると思っていたのに、年を重ねるごとに、些細なことで涙がすぐこぼれてしまう人になった。
祖母と重なる、S様の面影
数日前、利用者のS様ががん末期と診断され、翌日には脳梗塞で倒れ入院されました。
「余命は一か月もないかもしれない」そう告げられた娘様は、電話の向こうで声を震わせながら泣いていました。
いつも笑顔で、リハビリを一生懸命頑張っていたS様。
通院同行はいつも私が担当し、待合室ではこう声をかけてくれました。
「王さんは偉いね、遠い国から来てこんな大変な仕事をして…ありがとうね」
「この前の味噌汁、だしがよく効いていて本当に美味しかったよ」
その優しい微笑みを思い出すたび、胸がぎゅっと締めつけられます。
そういえば、
祖母が亡くなった年齢と、S様の年齢が同じだということに。
二人とも、子どもに迷惑をかけないよう、懸命に生きてきた人生でした。
ある朝、目を覚ますと枕が濡れていました。
祖母とS様の顔が浮かび、頬から温かいものが流れていた。
忘れない限り、人は生きている
やはり、大切な人の死を穏やかに受け止められるようになる日は、きっと一生来ないのだと思います。
本当に人を壊すのは、「亡くなった」と知らされる瞬間ではない。
すべてが静かになったあと、何気ない日常の中で、ふとよみがえる思い出。
それがじわじわと心を削っていく。
それはまるで終わりのない痛みのようです。
祖母の死は、激しい雨ではなく、ずっと続く梅雨のような湿り気。
人生の隅々に染みこみ、離れることのない感覚。
私は今も、その湿りの中で生きています。
夜、大好きな映画『リメンバー・ミー』を改めて観ました。
人には三つの死があると言います。
身体の死、埋葬される死、そして“忘れられる死”。
祖母は私の中で、まだ生きています。
S様は娘様の心の中で、これからもずっと生きていくでしょう。
「数十年後、あなたの親が亡くなったらどうする?」
と嫁に聞かれたとき、私はこう答えました。
「実家の前の階段に座って、子どもの頃みたいに、迎えに来てもらおうかな」
久しぶりに実家を思い出しました。
あちこちに残る落書き、親の足跡、祖母の車椅子のタイヤ跡。
そこには、“生きた時間”が刻まれています。
忘れなければ、人は死なない。
私はそう信じています。
そして今日もまた、誰かの人生に寄り添いながら、
そっと手を握り、温もりを伝えるこの仕事を続けています。